◆口上

ケマンソウ

毎日ぐずついた天気が続き、気が滅入ってくるね。暑いんだか、寒いんだか、その辺の判断も難しく、出かけるたんびに、着て行くものの選別に時間が取られる。この時期の雨を菜種梅雨、または菜種腐し(くだし)というらしいが、NHKの天気予報で菜の花が満開になる頃に降る雨をいう、なんて間違った説明をしていた。近頃、天気予報も打率がいいので、許してあげるけどさあ、ちょっとねえ。

渥美清が亡くなったのは1995年、「男はつらいよ」全48作すべて見たが、45作以後の寅さんは、立つのもやっといった感じで、痛々しくて見ていられなかった。といいつつも、これまで何度も見ているのに、先月終わったNHK−BSでの全作品放映を改めて見ていても、とても新鮮に感じた。筋立てのマンネリはともかくとして、寅さんといえば、やはりあの心地よい声と絶妙な間合いで、テンポよく語るアリアと口上売りがウリだったね。

あの口上売りの歯切れのいいセリフは何度聞いても覚えられなかったが、何度聞いても面白い。テキヤの啖呵売(ばい)っていう奴、すべて七五調、内容も決して生半可ではなく、歌舞伎、講談、落語、浪花節などのネタがすべて網羅されていて、けっこう中身は濃い。あの啖呵売は、すべて、渥美清が記憶していたもので、監督や脚本家が考案したものでないってのもすごい。すべて暗記していて、まるで立て板に水を流すように、スラスラと口をついて出たらしい。その一部を抜粋してみた。蛇足ながら、テキ屋は稼業人で、博徒渡世人ということらしい。

結構毛だらけ 猫灰だらけ。見上げたもんだよ 屋根屋のフンドシ、見下げたもんだよ
底まで掘らせる井戸屋の後家さん。上がっちゃいけないお米の相場、下がっちゃ怖いよ柳のお化け。憎まれっ子世に憚る、日光結構東照宮。お産で死んだが三島のお仙、お仙ばかりが女じゃないよ、四谷、赤坂、麹町 チャラチャラ流れる御茶ノ水 粋なネエチャン立ちションベン。

白く咲いたか百合の花、四角四面は豆腐屋の娘 色は白いが水くさい。ゴホンゴホンと浪さんが磯の浜辺でねえあなた、わたしゃあんたの妻じゃもの。白い黒いは何見て分かる 色が黒くて貰い手なけりゃ 山のカラスは後家ばかり。色は黒いが味見ておくれ 味は大和のつるし柿 色は黒くて食いつきたいが あたしゃ入れ歯で歯が立たない。