◆ピーカン

宿根

朝からうすら寒い日で、うすぼんやりとしながら7月がはじまった。6月14日に関東地方の梅雨入りを宣言したのは気象庁。ところが皮肉なことに、その日から1週間もピーカン続きで真夏の陽気が続いている。出鱈目な社会保険庁同様、まったく仕事もせずに、下駄を放り投げて、裏なら雨、表なら晴れの予報を出しているんじゃないかって疑いたくもなる外しぶりだ。それでも金曜日にお湿り程度の雨が降ったけど、これとて、夕方から雨になるという予報はまったく外れ、朝からシトシト金曜日といった体たらく。ようやく梅雨空らしくなってきたと思っていたら、翌日も朝から見事なピーカン振りで、梅雨はいったいどこへ行ってしまったんだろう。

ある雨の日、出かける用事があったので、傘をさしての道行だったが、駅へ着くまでの10分間が苦難の道となった。豊洲運河にかかる不自然なほど真中が盛り上がっている急坂の橋、「朝凪橋」を歩いている途中、突風にあおられて、傘がオチョコになった。なんとかだまし透かして橋を渡ると、超高層マンションが待ち構える。風の道を封じられた突風が迷走し、またしても傘がオチョコ、やっと通りぬけたら、今度は豊洲駅前に林立する超高層ビル、またしても乱気流が荒れ狂っていた。駅に着くまでのわずかな時間に、ビッショリとなり、クタクタに疲れ果ててしまう有様だった。

「ピーカン」とは快晴のことで、もともと映画業界が撮影時に使っていた言葉のようだ。ピーカンの缶入りのショートピースを略して「ピーカン」というが、ある有名な映画監督が助監督をやっていたときに、監督に天気を聞かれて空を見上げたら、ピースの缶の色のように真っ青で絶好の天気だったので「ピーカンです」と伝えたのが始まりだそうだ。

ピーカンは学生時代には決して吸えなかった高嶺の花だった。年ふり、憧れのピーカンの封を切ったとき、その素晴らしい香りを嗅ぐだけで大感激、しばらくはタバコに火をつけるのも忘れるほど、恍惚感に酔いしれた思いがある。一頃は都会の煙草屋では手に入りくく、地方都市に出張すると、まとめ買いしたこともある。いまじゃ、あんな強いタバコはとても吸えないけど、いまでもあの香しい「ピーカン」は、ちゃんと売られているのだろうか。