◆策略

東京タワー

プロ野球シーズンも公式戦が終わりに近づき、巨人・阪神の優勝争いを、まるで蚊帳の外にいるような、そしらぬ顔をして傍観していたのが、策士落合監督率いる中日ドラゴンスであった。目立たぬように勝ち星を稼ぎ、気がつけばいつの間にか首位に躍り出てしまった。セリーグ優勝の決定は数日後だが、事実上セリーグ制覇は決まってしまった。

今年のチーム総合力は大いに劣っていた。主力選手の欠場が相次いだ。極端に言えば打撃陣は森野、和田の二人だけという惨状なのにだ。にも変わらず、好成績を残しているのは、一にも二にも充実した投手陣を擁していたからである。それも若手中心で、どこかのチームのように、他チームから移籍したロートル外人投手は皆無である。主軸はいずれも純粋培養してきた生え抜きの投手たち、しかも、どの投手も完投能力があり、しかも強力なセットアッパー、リリーバーを擁しているのが脅威である。

セットアッパーはこいつが出てくると、もう勝ち味はないと思わせる程の凄みさえある26歳の吉見、リリーバーは球界一のリリーバー、36歳の岩瀬、いってみれば彼らが出てくる前に勝負を決していなければ、まず勝てそうもないほどの強力救援陣である。先発もまた素晴らしい。26歳のエース浅尾、25歳のチェン、28歳の中田、28歳のネルソン、32歳の山尾、32歳の小笠原、23歳の岩田の強力先発陣に45歳の山本が加わる。

特色すべきは、これら投手が一流大学、一流高校出身者ではなく、ドラフト下位で取った名もない学校出身者であるということである。いずれも剛速球と鋭い変化球を自在に投げる。いくら強力打線を有していても、投手陣が壊滅状態の巨人には勝ち目がない。ファームから出世した投手が一人もいないようでは、巨人の育成能力に疑問符が付くのは当然で、まるで勝ち目がないのが現状だ。

中日・落合監督というと、選手時代から毀誉褒貶が絶えないので有名だが、不言実行を厳格に自らに課し、優れた成績を残してきた。監督就任後も、不言実行は鉄則で、最近では主力選手にもその考えを徹底してきた。その結果、中日に関するニュースが漏れてくることがなくなった。取材できない報道陣は、再三にわたり情報の開示を要求したが、落合監督は薄ら笑いを浮かべながら、婉曲に拒否し続けた。

これだけ強いドラゴンスの評判がいまいちなのは、一にも二にも落合監督の存在である。唯我独尊、周囲の雑音などには全く耳をかさず、我が道を行っている。この独善性、野球感、勝負師としての根性、どうにも好きになれない監督だが、6連覇を果たした巨人川上監督の領域に達しつつあるのは衆目の一致するところ、孤高の英雄ここにアリっていうことか。