◆述懐

平和の灯火・長崎(朝日新聞)

ある初老の高級ブティック・オーナーの述懐

先日久し振りに、秋冬物の展示会に出掛けた。今年のテーマはレザーということで、各デザイナーが素材として豊富にレザーを使っていた。相変わらず稚拙なデザインが多かったが、幾つかのデザイナーがあの偉大な高級レザー、スペイン製のコロメル社製の素材を使っているのを見て、思わず感激してしまったわ。

スペイン製にしろ、イタリー産にしろ、最大の欠点は素材は最高だけど、デザインとパターン技術、裏地の選び方と使い方の稚拙さが、都度気に掛かってしょうがない。この商品で1着40万円もするんだったら、わたしなら、現金を持参して現地に向かうわね。いまはユーロ安のため交通費を含めても、20%は安い。

まず、イタリーのベローナに飛び、精密なパターンをもとに型紙を作らせる。むろん、裏地も一緒、十分なまちと余裕ある縫い代のある高級アクリル裏地を選び裁断する。これを持って、スペインに飛び、バルセロナでコロメルの素材を扱っている皮革商を探し、裁断を依頼する。これを再びイタリーに持ち込み、在住の日本人お針子さんに縫製を依頼する。これだけ手間暇掛けても、おそらく30万円以内で製作が可能でしょう。

コロメルの良さは、その柔らかさ・艶のある深い光沢・見事なシボ・発色の良さに尽きるだろう。一説によれば、コロメルの高級品は、未だにモロッコで人糞によるなめし作業を行っているという。水に弱いから、なめしの段階で、防水対策を施した方がいいかもしれないわね。この製品は手入れさえ怠らなければ、100年後も立派に着られるだけのステータスと風格がある。ビバ!コロメル!