◆秘密基地

スミダノハナビ

長年、花を追っかけていると、町を歩いているときでも、バスの窓からでも、目の端にチラっとでも白く感じるものが走ることがある。それは長年の習慣で会得した動物的感とでもいうべきもので、目の端をちらついたのは間違いなく花である。ボケッとしたように町を歩いていても、目は必ず花の姿を追いかけている。

久し振りに町へ出たとき、目より少し高い位置に、白いものがちらついたとき、ああー、もう山法師が咲く季節になったんだと実感した。そしてその方角へ近づいて
いくと、果たして山法師が咲いていた。以前はいい香りがしているなあ、どこから匂ってくるんだろうって、思わず振り返ったりしたのが、春先では夏の終わり頃ではだった。ところが最近ではその香りに余り気がつかない事も多い。どちらも香りは最高だが、咲く花がいまいちということもあるが、確実に数が減っている。

梅雨の時期に強烈な匂いで人を誘うのは、まぎれもなくクチナシだろう。クチナシは漢字で書くと「梔子」または「枳殻」と、かなり難しい字になる。匂いも強烈だが、白い花も一重は個性的な顔をしているし、八重はどぎついほど厚手のハナビラで、官能的である。咲き始めたらすぐに写さないと、日持ちが悪いから、たちまち変色して使い物にならない。また、その強烈な匂いに引き寄せられてアリなどの虫類が殺到するから、始末が悪い。毎日ツボミの様子をうかがっている。

長い間花を追っかけていると、その時々に秘密のアッコチャンじゃなくて秘密の基地みたいなものを持つようになる。この花はこの場所のものが絶対いいというような信念だ。そうした場所を幾つも持ってはいるが、年々そうした場所が減ってしまった。たとえばスイフヨウ、この春無残にも掘り起こされてしまった。まさに貴重な自然遺産なのに、絶滅危惧品種なのだが、そうした場所の一つがガクアジサイの秘密基地だった。

ここは狭い場所にもかかわらず日当たりがいいこと、種類が選ばれていること、人通りから外れていること、などの利点から毎年素晴らしい花を咲かせてきた。ただ、この場所は消防自警団の倉庫の僅かな空地だから、いつ潰されてもおかしくないのだ。だから、気が気じゃあなかったのだが、案ずることはなかったようで、今年は例年以上見事な花を咲かせてくれた。よかった、よかった。