◆日比谷公会堂

ソメイヨシノ

かつてクラシック音楽の殿堂だった日比谷公会堂で、66年前にN響の前身楽団が演奏したのと同じ曲が3月15日、N響によって再演された。公会堂開設80周年記念コンサート「あのときの感動を再び」で、音楽の殿堂の復活を試みる。タクトを振るのは、当時指揮した故尾高尚忠さんの次男で、1月にN響正指揮者に就任したばかりの尾高忠明さん(62)だ。

プログラムは、チャイコフスキー交響曲第五番」など。太平洋戦争中の1944年3月15日、N響の前身、日本交響楽団定期演奏会で演奏したのと同じ。当時は2000人を超える聴衆が音楽を求めて集まった。忠明さんは「子どものころ、ホールへ向かう階段を上がると、ワクワクした」と日比谷公会堂での演奏会の思い出を語る。

父が音楽活動での過労で早世したため、母は音楽の道に進むことを望まなかった。だが、中学三年のとき、公会堂でN響ワーグナーを聴き、体に「電流が走った」。指揮者を目指すきっかけになったという。父の記憶はほとんどない。今度の記念演奏会に「おやじの霊と対面できるかも」とほのかな期待を抱く。66年前と比べ、演奏技術は格段に向上しているが、ホールには独特の響きがあり、懐かしい音がよみがえりそうだ。忠明さんは「日本の洋楽の原点に近い演奏会になる。音楽の歴史を感じてもらえればうれしい」と話す。

日比谷公会堂といえば、青春時代を音楽で過ごした者にとっては、まさに夢の殿堂であった。ここで演奏会を開きたいという野望は、音楽を志す者にとっては当然の如く抱いたものだった。いまでも日比谷公園に行くと、いつのまにかその姿をカメラに納めている。当時はコンサートホールでは日本一と称されたものだったが、その後あちこちに豪奢な音楽ホールが建てられ、日比谷公会堂の価値は相対的に低下していった。この前もその前を歩いていたら、某大学の応援団の同窓会が開かれており、時代の流れとはいえ、ちょっと寂しい思いにさせられたね。