◆カレンダー

ジンチョウゲ

弥生3月、我が家の茶の間にぶら下がっているカレンダーは小野竹喬が描く「春」である。画面を横三層に分け天の部分はブルー、人の部分はオレンジ、地の部分はグリーン、いずれも淡い色調で描かれ、画面中央には若芽を伸ばそうとしている、サクラの大木が佇立している。ただ、それだけの構図だが、迫り来る春の歓びが満ちあふれている。京都画壇らしいユッタリとした落ち着きの中で、悠揚たる春の訪れを表現している。とりわけオレンジの配色が鮮やかで目に焼き付く。

小野竹喬といえば、京都画壇の大御所で、竹内栖鳳に師事、同期生にあの華麗な色遣いで一世を風靡した土田麦僊がいる。50歳前後で没した麦僊に対し、竹喬は戦後も日本画壇の重鎮として活躍し、1967年には文化勲章を受章している。

桜を描いた名作といえば、すぐ思い浮かぶのは横山大観の「夜桜」と加山又造の「月朧」だろう。夜桜」は真っ赤に燃える篝火に映える桜と松が織りなす一大交響詩で、絢爛たる構図の中で雅やかな桜が豪華に咲き誇るさまは、限りない幽玄の世界を現出している。その凛とした光景はまさに男性的な叙事詩といえよう。一方「月朧」が満月と臈たけた桜の構図であって、華やかながら、淫蕩で退廃的とさえ感じられる女性の肢体を思わせる色気がある。

コチトラが好きな作品は奥村土牛の「醍醐」である。京都の名刹醍醐寺三宝院前の土塀のしだれ桜に魅せられた作品である。静謐の中、ポツンと咲いているサクラは朧ではかないが、しっかりと地べたを抑えている。悠揚迫らない中で、その存在感は極めて大きく感じられる。前二者と比べると、スケールの点でも余りにも地味だが、サクラの持つ華やかさと寂しさを見事に表現していると思う。

こんなことを書いていたら、次のような記事が飛び込んできた。<東山魁夷「緑響く」や加山又造の「月朧」「華と猫」など「贋作」4点が、計1億2800万円で売却された詐欺事件の判決公判が16日、岡山地裁倉敷支部であり、篠原康治裁判官は、「贋作」を描いたとして詐欺幇助罪で逮捕、起訴された福井市の画家(65)に、無罪(求刑懲役2年)を言い渡した。絵はあくまで模写として描いたもので、詐欺に使われると知らなかったという画家の主張が認められた。画家の弁護人は「模写は画家にとって普通の仕事。それが罪に問われるなら、画家はみんな犯罪者にされる」と話している>。