◆深謀遠慮

スプレーギク

民主党政権が発足して1ケ月が過ぎた。新政権には大きな期待をを寄せているが、どうも動きが緩慢で、なにを目指すのかという展望が見えてこない。新たに始まった国会予算委員会論議を見ていても、はがゆいのである。物足りないのである。自民党政権の残した膨大なツケの後始末と、マニュフェストの忠実な実行にばかり、かかり切っているように思われる。

鳩山内閣の特徴は、閣僚が相次いで問題を提起し、それを主要閣僚3人が調整、鳩山首相は追認に徹するという多重構造にある。閣内不一致との批判を恐れず、戦線を広げることで改革姿勢を印象づけるスタイルだ。ただ、ここへきて首相の指導力不足という一面も大きく浮かび上がっている。また、鳩山首相資金管理団体をめぐる偽装献金問題は、政権を揺るがす負の構造となりつつある。

一方、「政策決定の政府一元化」という小沢ルールのもと、内閣と党を切り離し、党運営で小沢一郎幹事長に権力が集中するシステムが構築されている。政府の行政刷新会議の「事業仕分け人」に新人議員が多数入っていることについて、「新人議員は国会優先」という小沢ルールにのっとって指摘し、人選見直しを促したことも、その一端に過ぎない。小沢幹事長は党運営に従事し来年の参院選挙に全力を固めるという姿勢だが、それは表の顔、深謀遠慮のかれが 、いま静かにしているのには訳がある。

亀井大臣がモラトリアム法案を提示し、郵便事業のトップに旧財務省幹部を起用したことに、敢て異を唱えなかったのにも、その一端が見える。どうも、鳩山内閣は短命であるという見極めをつけているんじゃないか。なにせ、鳩山首相は頼りないが、民主党政権は今後少なくとも4年は続く。しかも小沢批判勢力はほとんどが政府要職に就いている。

そうした観点でその先を見据えると、小沢の読みが見えてくる。いまや国家戦力局という名前だけは立派だが、鳩山内閣で閑職に追いやられている菅副総理を次期首相に据えて、本人は得意の裏方に徹するというスタイルである。いわゆる政敵というほどのものではないか、魚の骨が喉に引っかかるような連中は、みんな閣内にいる。来年の参院選に勝利すれば、閣内を乱している国民新党社会党ともおさらばできる。となれば、新政権は一体感があり、整合性のとれた内閣になる。

あらかじめ将来を予測して配置した、副大臣政務官に送り込み、実力を付けさせた若手議員を、堂々と閣僚に登用できる。また、行政刷新会議から引っぱがした新人議員などを次の内閣の副大臣政務官に送り込むと同時に、国会の各種委員会には、勉強会で力を付けた新人議員を大挙送り込む。各種ちんじょうを党本部に一本化し、14人いる副幹事長が各省別に担当する。深読みすれば、首相補佐官(国家戦略担当)に菅直人副総理兼国家戦略相の側近、荒井聰衆院議員を送り込んだのも、高齢化した藤井財務相や、渡部恒三最高顧問に三行半をつきつけたのも、長期安定政権維持のための戦略の一端と見ていい。

もはや、小沢一郎も年を取った。となれば、己の理念を引き継ぐ者へのバトンタッチを考える時期である。菅政権で実力をつけさせ、知名度を上げた若手閣僚の中から、後継者を捜し出すに違いない。その辺りから、新生日本への大きな舵取りが始動すると見てよい。そのためには、来年の参院選を大勝させる黒子役に徹せざるを得ないのである。まさに深謀遠慮というしかない。