◆アカ

青空

秋も深まりつつある9月下旬だが、きょうもまた、真っ赤に燃えた太陽がでんと腰を据え、四方を睥睨している。ベランダで裸になって、この豊かな太陽の恩恵に浴そうと頑張ってみたが、肌を刺すような峻烈さに、いささかたじろいだ。爽やかな秋の日和を、肯定したくない太陽の意地さえ感じられる。とはいえ、季節は間違いなく巡っていると感じるのは、太陽の位置が低くなり、家の中まで日が差し込んでくる間合いが長くなったことからだ。まもまく、窓辺の日溜まりで悠然と転た寝を楽しめる季節になる。

秋の夜の楽しみは豊かな食事と温かい風呂である。これがあるからこそ、人生は楽しいのだが、さて、その食事はひとまず置くとして風呂である。ガンガンに熱した湯槽に使い、シトドと汗を流す快楽は、秋から冬にかけてのご馳走である。一番好きなタイプは硫黄泉だが、これは掃除にえらく手間がかかるので、泣く泣く除外する。すると次にシフトされるのが真っ赤な風呂だ。それも毒々しいアカではなく、夜明けの茜色を思わせる、清々しい癒しのアカだ。

この湯につかると、しんぞこ癒される思いとなる。精神が鎮められ、身体が柔らかくなり、やがては夢幻の境地へと導いてくれる。いま使っている入浴剤は2種類あり、一つはトウガラシとチンキを主材料とした茜色、今一つはショウガを主成分とした朱色である。あかという色が人間を鎮静してくれる効能があるなんて考えたこともなかったね。アカというと人は血とか激情、混沌などを思い浮かべるが、人を落ち着かせる作用がある。これって、赤チンを塗ると、どんな傷でも治ってしまうって、思い込んでいたガキの頃の思い入れが強いのかもしれない。

チンキ、懐かしいなあ、あのヨードチンキ、つまり赤チンのことだよ。ガキの頃、何かと手傷を負うことが多かったが、その際塗られるのが赤チン、初めは恥ずかしかったが、あちこち塗りたくっているのが、ガキの勲章に思えるようになって誇らしく感じたものだ。赤ん坊や小さなガキが、母親に赤チンを塗られ、「痛いの痛いの飛んで行けー」なんて、訳の分からないオマジナイをかけられていたっけ。あの頃、イタズラなど悪さをすると、「お天道様に叱られる」なんていわれたものだ。あの灼熱に燃える太陽は畏れ多かったが、憧れの象徴でもあった。