◆危機一髪

東大農学部

第91回全国高校野球選手権大会は24日、阪神甲子園球場で決勝があり、中京大中京(愛知)が10―9で日本文理(新潟)を下し、66年の48回大会以来、43年ぶり7度目の優勝を果たした。7度の全国制覇は史上最多。中京大中京は6回、打者11人を送る猛攻で一挙6点を勝ち越した。すさまじい試合となった。あと1人を討ち取れば優勝、点差は6点もある。だれしも中京の圧勝を疑わなかった。9回表二死走者なし、ここから日本文理の信じられない反撃が始まった。そこには勝利の女神が気まぐれでも起こしたような神の領域があった。

プロ注目のエースで4番・堂林翔太は9回を華々しく締めるはずだった。6点リードの9回。先発して一度は右翼に回った右腕は、監督に再登板を直訴。ところが、2死一塁から連続長打を浴び、さらに死球を与え、1、3塁としたところで右翼に戻った。後は5点を猛追される展開をただ見守るだけだった。勝利の瞬間、体から力が抜けた。胸を張って臨むはずのお立ち台で、まさかの謝罪、うれし涙と悔し涙が同時にこぼれ出た。

この投手が出てきたら、もう絶対打てないという諦めを相手チームやファンに思わせるような絶対的存在のリリーフ投手が、これまでも壁のように相手チームの前に立ちはだかってきた。かっては「8時半の男」として盛名をはせた、ジャイアンツの宮田であり、「大魔神」とうたわれた、大洋ホエールズの佐々木であり、阪神タイガース藤川球児であった。

いま、セリーグでその名をほしいものにしているのがヤクルト・スワローズの韓国人リリーバー林昌勇。サイドスローから繰り出す155kmのストレートは打者の手元でぐっとホップし、一転してチェンジアップは微妙な回転を得て、コーナーの隅をよぎる。その絶対的守護神が貧打にあえぐ巨人打線の前に立ちはだかった。点差はわずか1点とはいえ、ああ、もうダメだとダレもが思ったに相違ない。

ヤクルト先発・石川の前に、打線は8回までわずか5安打。完封負けのムードが漂う中、9回に林昌勇が登板すると流れが変わった。脇谷、ラミレスの連打などで1死満塁の好機をつくり、ツバメの守護神が何と2連続押し出し四球の大ドンデン返しが演じられたのだ。相手の独り相撲だったから、歓びもいまいちだけど、野球って、絶対絶命のピンチの中から思わぬドラマが起きるから面白い。