◆だるま

仙台七夕

♪ドンドンディドン シュビダデンーー。渋いスキャットと黒いボトル。カラーンというオンザロックの氷の音。サントリーの垢抜けたCMを見ながら、あのダルマが毎日飲めたらいいなあ、って思っていたなあ。あの頃は。トリスバーは一世代上の人たちの世界だった。学生時代、下宿でがぶ飲みするのはレッド、近くの飲み屋に置いてあるのはホワイト。

角瓶には手が届かなかったし、ダルマと呼ばれたオールドをたまにもらおうものなら、仲間を呼んで騒ぐか、チビチビと1人で飲むか悩んだ者だった。明日は今日よりいい日に違いないと、素直に信じられた昭和の時代である。開高健山口瞳ら優れたコピーライターを擁し、サントリーもその風景の一部を上手に演出していた(以上、朝日新聞コラム「窓」の一部より)

振り返ってみればあの頃、トリスが1瓶340円、サントリーホワイトが720円だったのに対して、(レッドはあまり記憶に残っていないが)サントリーオールド
つまり、いうところのダルマは1500円、しょせん高嶺の花だった。滅多に口にすることはなかったが、ダルマがウイスキーの味とすれば、トリスは薬の味がした。まあ、なんであるにせよ、気軽に飲んで安直に酔えればそれでよかったわけだから。その後舶来ウイスキーとの出会いもあったが、よくよく考えてみれば、どんな高価なウイスキーを飲んでも、感想は苦いという第一印象からは逃れられなかった。

接待で飲みに行くときにウイスキーの水割りを飲む時を除けば、アルコールは喉でゴクゴク飲むビールと決めてしまった。以来ビール以外のアルコールは偶にワインをたしなむ以外は、ウイスキーを始め、コニャック、日本酒、焼酎などは口にしたことがない。最近、ウイスキーオンザロックハイボールが復活しつつあるという。ウイスキー会社の必至の宣伝が寄与し始めたようだ。なんといっても、サントリーのCMで、絶世の美女、小雪が角でハイボールを作ってくれるっていうんだから、酒飲みにはたまらない思いがするよね。

想えばハイボール復活の道のりは遠かった。トリスバーではハイボールが当たり前だったし、メチルアルコールの匂いがする、安ウイスキーをそうして誤魔化さざるを得なかったのだ。やがてビールが全盛時代を迎え、日本酒の高級吟醸、焼酎の水割り、葡萄酒(当時はワインをそう呼んでいた)、ビール風飲料、いろんなアルコール類台頭の前に、ウイスキーは席巻されてしまったのである。

日本各地にトリスバーができはじめているらしいが、けっこうな話である。カウンターに座って、スルメを唐辛子をまぶしたマヨネーズをかじりながら、ウイスキーをチビリチビリと飲む、これって応えられない思いがするね。