◆新盆

藤棚

今年はにょうぼの母が94歳で大往生を遂げ、つい先だって49日の法要を行ったばかりだ。人が亡くなってから初めて迎えるお盆のことを「新盆」というそうで、13日におがらを焚き、故人の霊をお迎えし、盆提灯を取り出し、供養の食べ物を仏壇に並べ、線香を上げ、故人の霊を弔い、16日に再びおがらを焚き、故人の霊を送り出した。ところが、聞くところによると、四十九日の忌明け前にお盆を迎える場合、新盆は翌年に繰り越されるそうだ。

むろん、にょうぼはその辺のところは心得ていたようだが、坊主の息子なのに、その辺のところはまったく無知蒙昧のまま、人生の黄昏を迎えてしまったようだ。昔でいえば世間のしがらみに五月蠅い頑固ジジイの年齢に達したのに、そうした面ではまったく疎いというのはどういうことなんだろうか。教育方針がガラリと変わった終戦直後に育ったことも影響しているんだろうか。

さて、本題は「おがら」、麻殻と書くが、この燃えやすい植物の正体は「苧」(からむし)、イラクサ科の多年生植物で、古来から植物繊維をとるために栽培されてきた。同様に繊維をとるために栽培されるラミーもカラムシの仲間である。別名は苧麻(ちょま)、青苧(あおそ)、紵(お)、山紵(やまお)、古代日本においては「ヲ」という表記もある。今でこそしつこい雑草として嫌われる場合もあるが、茎の皮からは衣類、紙、さらには漁網にまで利用できる、丈夫な靭皮繊維が取れるため、分布域では6000年前から栽培されてきた。

中世の越後国は日本一のカラムシの産地だったため、戦国大名として有名な上杉謙信は衣類の原料として京都などに積極的に売り出し、莫大な利益を上げた。新潟県十日町市で江戸時代から織られている伝統的な織物、越後縮はこれで織られている。国の重要無形文化財に指定されている「小千谷縮越後上布」の原料であり、いまでは福島県会津地方の昭和村で栽培され、本州唯一の産地となっている。新潟中越地震で村を分断される大損害を受けた長岡市山古志村には種苧原(たねすはら)という集落がある。一説には会津からの落ち武者らが作った集落ともいわれている。

アサ(麻)は中央アジア原産とされるアサ科属で一年生の草本で、大麻(たいま)または大麻草のこと。この植物から採れる麻薬を特に大麻マリファナ)と呼ぶ。広義にはアサは麻繊維を採る植物の総称であり、アマ科の亜麻やイラクサ科の苧麻(カラムシ)、シナノキ科黄麻(ジュート)、バショウ科マニラ麻、リュウゼツラン科サイザル麻がアサと呼ばれる。