◆熱視線

クチナシ

テニスのウィンブルドン選手権は最終日の5日、男子シングルス決勝が行われ、第2シードのロジャー・フェデラー(スイス)が第6シードのアンディ・ロディック(米)をフルセットの末、5―7、7―6、7―6、3―6、16―14で退け、2年ぶり6度目の優勝を果たした。四大大会で通算15勝目となり、ピート・サンプラス(米)と並んでいた歴代最多記録を更新した。ロディックは2004、05年に続いて決勝でフェデラーに敗れ、03年全米オープン以来となる2度目の四大大会制覇を逃した。

第5セット、「16―14」の数字が物語る死闘で史上最多勝をつかみ、歓喜が爆発した。耐え忍んだ4時間16分だった。228キロを上回る大会最速サーブをブレークできない展開は続いたが、譲らない。50本のサービスエースを決め、黙々とレシーブを返し、我慢のテニスに徹した。そして、第5セット30ゲーム目。疲れの見えたロディックが、先にミスを連発し、神経戦に耐えた王者の初ブレークが、四大大会15勝目を決めた。

この結果は今朝の朝刊には載っていなかった。当然だろう、試合が終わったのは、日本時間で3時半だったからなあ。いやー、すさまじい試合だった。両選手がともに譲らず、フルセットも20回を超え、どちらが勝つかまったく予断を許さない状態のまま、試合は硬直していった。個人的意見を言えば、フェデラーだが、強力サーブの決定力で、相手を圧倒していながら押し切れなかったのは、リターン・ボールに正確さが欠け、相手につけ込まれたことである。正確さを信条とするフェデラーの技術的衰えを痛感させられた。

それにしても、深夜に、このような激しい試合を見せられると、一刻も目が放せない。ロディックの粘りも見事なもので、どちらが勝っても不思議じゃない状況だった。第一サーブがなかなか決まらないのに、ここまで粘れたのは勝利に対する異常な執念がもたらしたものだろう。試合後眼を真っ赤にして天を仰いだロディックの姿には、なにか人を寄せ付けない神々しさを感じたね。

しかし、人間ってどうしてこうも忘れっぽいのだろう。昨年の今頃もまた、このウインブルドンフェデラーは、宿敵ラファエル・ナダルと熱闘を演じ、結局は敗れ去ったのだが、あの試合ももの凄かった。技術と体力、それにも増した強力な精神力がぶつかり合う近来にない好ゲームに大きな感動を得たものだったが、その激烈なシーンがちっとも思い出せない。今更ながらあの感動はなんだったんだろう。そして、昨晩感じた感動もすぐに忘却の彼方へと行ってしまうだろうことが恐ろしい。珍しく月が顔を出している。明日は七夕、久し振りの真夏日となるらしい。