◆記録

ハマナス

四月一日」と書いてわたぬきと読ませる名字がある。陰暦では四月一日を「綿抜きの朔日(ついたち)」と称していた。文字通り衣替えで、綿入れの着物から綿を抜く慣習に基ずいているからだが、「わたぬき」という名字は、この故事に由来しているようだ。「八月一日」と書いて「ほずみ」、「八月十五日」と書いて「つゆり」と読ませるのも、同じような故事に由来しているらしい。

また、まるで判じ絵みたいな名字の付け方もある。「小鳥遊」と書いて「たかなし」、「月見里」と書いて「やまなし」とはこれいかに?「鷹がいないから小鳥が遊べる」、「山がないから月見がきれいだ」、言われてみれば、その通りだけどおかしな名字だよなあ。明治時代になって、初めて名字を許された士農工商の士を除く人たちの混乱状態がよく分かるねえ。

二文字の熟語で一文字目を音読み、二文字目を訓読で読むのを「重箱読み」、反対に一文字目を訓読で読み、二文字目を音読で読むのを「湯桶読み」という。重箱とは、何段か積み重ねられた食物を入れる箱であり、かつてはお節料理や行楽によく使われていた。重箱読みの例を挙げると、重箱、音読み、額縁、客間、経木、金星、 工場、役場、残高、桟橋、新顔、雑木、台所、反物、団子、賃上げ、頭突き、番組、 本棚、本屋、豚汁、香醋などで、後半が濁音化する例が多く見られるようだ。

湯桶読みは「湯桶」のように、ある語の前半を訓読みで、後半を音読みでする読み方のこと。湯桶とは、湯や酒を注ぐための容器のことであり、かつてはよく使われていた。湯桶読みの例を挙げると、合図、相性、朝晩、雨具、 粗熱、粗利、返り点、株券、小兵、白菊、敷金、高台、手本、手数、手帳、鶏肉、荷物、野宿、豚肉、見本、湯茶、夕刊、甘食、遅番などがある。

日本の歴史に限らず、世界の歴史は、君臨した権力者の側で書かれたものが、いまでも厳然として残っている。とりわけ日本では、万世一系天皇家なんてのはまったくウソッパチだし、戦後、熊沢天皇が出現するなんて出来事は、予想できないことではなかった。聖徳太子の存在も曖昧だし、南北朝の合一にしたって、非常に不自然だ。いずれにせよ、日本の統一は朝鮮の新羅王朝と高句麗出身の亡命者たちによる権力闘争の感が深いし、その争いは戦国時代まで続いている。宮内庁が未だに仁徳天皇陵などの天皇御陵の発掘を拒否しているのも、むべなるかな。

そんな昔にさかのぼらなくても、維新当初、日本政府を率先統括し、版籍奉還廃藩置県、地租改正などの施策を実行した西郷隆盛の失脚にしたって疑問だらけだし、満鉄事業部の実態や真相などでさえ、未だに解明されないままである。朝敵として屈辱に塗れた会津藩の無念も歴史の闇に閉ざされたままである。なにせ、藩閥政府に不利になる記録や書類は、ことごとく焼却処理され灰燼に帰している。