◆追伸

スイセン

きのうで、好むと好まざるとに関わらず、73才になることを仰せつかってしまった。七十路(ななそじ)といえば聞こえがいいけど、急にどかっと老いの衰えを感じてしまう。もう73才になっちまったか、まだ73才なのか、考え方一つで展望も違ってくるけど、これからは双方が入り乱れた争いになるかもしれない。

マゴ莉子が茉莉花(マツリカ)つまり、ラベンダーから頂いた名前だということを、次男から偉そうにいわれ、むっとした経緯を話したが、このとき、よっぽど、マリファナって読むんだろうって、皮肉の一つもいってやりたかった。要するに同じく漢字自慢のムスコがオヤジを試したわけだが、いわれてみて、そうだったと初めて気付くほどの曖昧な知識だったのは間違いない。

ところで「莉」という漢字を漢和辞典で調べても、意味が載っていない。『新漢語林』では、「茉莉マツリは香草の名、ジャスミン」とあるが、「茉莉」の意味はわかったけど、「莉」の方はどこへ行っっちまったんだい? それはね、「莉」は単独ではほとんど意味がない漢字だからだ。単独の用例というのは全くなく、特に現代では、「茉莉」以外ではこの漢字は使わないと考えていいだろうとのこと。他と結びつくことで初めて意味を持つなんて、なんとも控え目で奥床しい漢字じゃあないか。そういう意味で万事控え目でシャイなリコには相応しい名前のようだ。

最近では、こどもの名前を親に付けてもらうなんて風習はなくなっちまったようだが、あの慣習は決して悪いものではなかったって、いまでも信じている。莉子という名前だと分かったとき、一瞬頭をひらめいたことがあった。にょうぼの名前が紀子(ノリコ)、密かに母親の名前から一字取ったんだろうってことだった。だから、莉子の名前は、茉莉花から取ったんだっていわれ、かなりむきになってしまったわけで。まして、次男夫婦に花を愛する精神なんて、これっぽっちもないのを知っていただけに、くやじいのだ。

古橋広之進を勝手に死なせてしまったのは、早とちりもいいとこだったが、最近、同年配の訃報をよく耳にするもんだから、ついそう思ってしまった。「フジヤマのトビウオ」古橋は、戦後の疲弊した次代に、颯爽と現れた英雄そのものだった。世界記録を次々と更新し、1500m、18分18秒フラットという大記録はしばらく破られずに燦然と輝いていた。芋とか麦が主食のあの時代に、どうしてそのような大記録が出せたのか、不思議だね。橋爪四郎という好敵手がすぐ近くに存在したのも大きな要因だったろうね。

かれらが絶好調の時期は、敗戦国日本の五輪参加は認められていなかったのが、まことに残念だった。次回の五輪でようやく出場が叶ったものの、すでに全盛期を過ぎてしまったかれらは惨敗を余儀なくされた。引退後、日本水連の役員として、後輩を指導し、前々回のアテネ五輪まで、水連会長として陣頭指揮に当たった。今日の日本水泳界の躍進と充実ぶりは目覚ましいのは、古橋の存在も大きき寄与したんだと思うね。