◆なつかしい

隅田川大橋

朝日新聞地方版に、北区立紅葉中学が来年春、統合され廃校となるって記事があった。在校生がその記念のために、力を入れてきたのが、かって滝野川村名産の牛蒡だったという。この何気ない記事を読んで遠い昔を思い出してしまった。小学校3年生の時、B29による度重なる東京大空襲により、母校谷端小学校が完全消失し、敗戦を迎えた昭和20年9月から、紅葉中学に作られた仮校舎で5年生まで授業を受けていたんだった。態度のでかいエラそうな中学生と顔を合わせるのが嫌だった記憶もある。

狐塚のさびれた商店街を抜け、国道17号線の横断歩道を渡り、左手に巨大な2基のガスタンクを見ながら、長い急坂を上がり下りしていた。先日試してみたら、予想以上の急坂で、たちまち息が上がってしまった。巨大なガスタンクは近代的なドーム状のものに変わっていて、やはり違和感を感じたね。国道17号には志村から神田橋までの都電18番線がひっきりなしに走っていて、巣鴨からは日比谷までの35号線もあり、都心に出るのにも、もっぱらこちらを利用していた。省線赤羽線は乗り換えがやっかいの上、混雑がひどかったから敬遠していたのである。

牛蒡というと、滝野川の名産で昭和初頭まで生産されていた。そういえば家の裏手にあった旧中山道には、種苗屋が幾つも店を出していた。そして、かれらはいずれも地元の資産家で、大きな邸宅に住んでいた。我が家は借地で、地主はやはり、いま思い起こせば種苗屋だったけ。牛蒡に限らず野菜類の栽培が盛んだった名残なんだろうねえ。ゴボウ料理といえばキンピラかドジョウ鍋だが、煮染めにしてもおいしいし、豚汁には欠かせない食材だ。どちらも決して目立たず控え目だが、入っていないと間が抜けたものになる隠れたヒーローだ。

競争などで後方からほかの選手を一気に抜き去ることを「牛蒡抜き」というが、これは厳密には間違いである。というのも、ゴボウはそれ自体が長く、根毛も多いから、するっと抜くことができない。事実、農家では、ゴボウは「抜く」ものでなく、「掘る」ものと認識されている。この言葉はむしろ、抜きにくいゴボウを一気に抜くことができるほどの力を持っている、という意味で用いるほうが正確のようだ。「太平洋で牛蒡を洗う」なんて、猥談でよく使った隠語だね。