◆大河ドラマ

奇妙なモニュメント

前回は直江兼嗣を主役にしたNHK大河ドラマ天地人」について概略を述べるに止まってしまった。久し振りに見ることになった大河ドラマだが、出足好調とは行かないようだ。いまが旬の妻夫木が泣いてばっかりいるのも冴えないし、薹の立った常盤貴子が相手役というのも、なんか間尺に合わない気がする。このままの展開だと、大好きだった反骨精神の権化、男・直江兼嗣の存在さえ否定されてしまいそうで、いつものように定型化された大河ドラマの範疇に組み込まれてしまいそうな気がする。


NHK大河ドラマといえば、かっては大人の役者が主役を張る骨格の太い作品が多く、見るものを画面の中でに引きずり込んだ。「花の生涯」、尾上松緑井伊直弼、「赤穂浪士」、長谷川一夫大石内蔵助、「太閤記」、高橋幸治織田信長、いずれも凛とした佇いが周囲を圧倒していた。時代劇っていうのは、正確な時代考証に基づいたもので、メリハリある演技が出来る主役の存在が必須要件だ。花の生涯で、天下の2枚目、佐田啓二が扮した長野主繕も、松緑の貫禄の前では、影が薄くなってしまったほどだ。

第5作「龍馬が行く」は原作を読んだ後だけに期待が大きかったが、あにはからんや、主役の北大路欣也がまったく期待外れで、以後幕末物は当たらないという定説を作ってしまった。北大路の龍馬は完全なミスキャストだったし、脚本も原作の長さと饒舌な脚注にに翻弄され、筋を追うだけの単純なものになってしまい、竜馬の持つ得意なキャラクターを発揮できないまま終わってしまった。この1作に失望し、以後、日曜8時台のNHK大河ドラマはコチトラのスケジュールから完全に外れてしまった。その後、じっくり見たのは1996年に放映された「秀吉」、2000年に放映された「利家とまつ」だけである。

「秀吉」は、あまり期待してなかったが、蓋を開ければ竹中直人のエネルギッシュな前向きの演技や、厳格ながらも人間味溢れる信長像を演じた渡哲也の名演、おね役の沢口靖子、秀長役の高嶋政伸、なか役の市原悦子足利義昭役の玉置浩二千利休役の仲代達矢、光秀役の村上弘明などの脇役たちの存在感もそれぞれ光るものがあり、平均視聴率30,5%、最高視聴率は37,4%と、歴代の大河ドラマの中でも上位に位置する高視聴率を記録した。

利家とまつ」は、織田信長豊臣秀吉に仕えて加賀藩主前田家の祖となった前田利家と、賢婦人として知られる正室のまつを中心に戦国群像を描いたドラマで、主演の唐沢寿明まつ役の松嶋菜々子がいきいきと演技していたのが印象に残っている。