◆小道具

恵比寿様

欧米の映画がめっきりつまらなくなったのにはいくつか理由がある。まず第一に、CGなどの特撮が多くなって、リアリテイに欠けていること。二番目としては、これは主として米画に顕著なことだが、ヒーロー、ヒロインが白黒2本立てであること。この公平さが映画を著しくつまらないものにしている。そして、三番目、これが一番重要なのだが、小道具としてタバコが使えないこと。情景描写や、主役のキャラクターを際だたせるタバコが使えないのは致命的だ。タバコをくわえないデカや悪党が画面に現れると、ウソっぽくて、臨場感が大いに失われてしまう。

フランス映画はタバコを小道具としてよく使っていただけに、印象的なシーンも数多い。「恐怖の報酬」で、いつ爆発するか分からないトラックを運転している恐怖のシーンを、イブ・モンタンがくわえタバコで鮮やかに表現していた。「現ナマに手を出すな」で、ジタンをくわえ、早口にまくしたてるジャン・ギャバンの鮮烈なイメージには参りましたの一言のみ。「死刑台のエレベーター」で、ジャンヌ・モローが不安を隠せないイライラ感を、タバコをやたらと吸うことで巧みに表現していた。びっくりしたのが、「嘆きのテレーズ」での娼婦役シモーヌ・シニョレ、両方の鼻の穴からドバッと煙を吐き出す鮮烈なシーンは未だに頭から離れない。

扁平に巻かれたトルコ・タバコ「ジタン」はあこがれの象徴みたいなタバコだった。洋モクが解禁になって、さっそく吸ってみたが、苦くて、からくて、まずくて、さんざんの目にあった。タバコをくわえながら、しゃべってみたが、これもまた至難の業、ましてや鼻の穴からドバっと煙を吐き出すなんて芸当は、ただただむせかえるだけで、全くの徒労に終わった。あと「刑事コジャック」で、テリー・サバラスがいつもくわえていた細身のシュガー、あれも粋でかっこよかった。

コジャックの後期シリーズでは、細身のシュガーが禁煙防止用の棒付きキャンデーに変わってしまったが、これはちょっと興ざめだった。多分あの頃からだろうなあ、タバコがやたらと目の敵にされだしたのは。案の定コジャックも軟弱化し、いぶし銀のすごさが消えてしまった。飴をしゃぶるデカなんて、あってほしくないもんね。最近ではよくガムをかんでるシーンにお目にかかるが、これも興ざめ、ただ安っぽいだけで、ちっとも趣きを感じないもんなあ。

今年はこれで終わりです。来年は1月4日から事始めするつもりです。それでは、皆様、良いお年を。