◆とんちんかん

中銀マンシオン

先日、NHKの書評番組で司会者の女性が、この小説は「土壺に嵌っていますね」、ところで自作はって聞くと、作者は詳しくは「語弊がある」のでいえないといい、別の話題でどうも小説を書くのは「間尺に合わない」とぼやいたのであった。女性の口から土壺に嵌るって言葉が飛び出したのにも驚いたが、答える作家がまだ30代なのに、語弊だとか間尺だのといった古い言葉が出てきたのは、ある意味で新鮮に感じたね。こういう会話が行われると、なんかほっとした気になる。

さて、物事のつじつまが合わないことや行き違いがあることを「頓珍漢」というが、その語源たるや、これまた諸説紛々で、つじつまの合わない説ばかりで、まさにトンチンカン。一番知られているのが、鍛冶屋の相槌の音からきている説で、鍛冶屋では二人が交互に槌をふるうのだが、いつもすれ違ってしまうから、その音をトンチンカンと表現したという。

ちょっと面白い説を戦前の満州から一つ。当時の満州には中国人、日本人、英米人が混在していたが、文化も違うので、意思の疎通がうまくいかない。とりわけ困ったのが、重さについての尺度だった。英米人はトン(頓)を、中国人はチン(陳)を、日本人はカン(貫)を尺度として物を量るので、文字通り頓珍漢となって取引が中々うまくできなかったというものだ。

はかるって言葉も色々あって、そのはかる対象によって使う字も違う。量る、計る、測る、図る、謀る、諮る。「量る」は容積や重さを、「計る」は数量や時間を調べ数えること、「測る」は重さ、長さ、広さ、深さ、早さを、「図る」は色々と試みること、「謀る」は策謀を巡らすことだし、「諮る」はある問題について専門家の意見を聞くこと。いやあ、日本語って難しいなあ。

いつも気になるのは、なぜ、あの美しい虹という字が虫偏なのかということである。虫偏のつくのは、小動物、昆虫が多いのは当然として、成虫になる前のさなぎ類まで含まれているから、妙に難しい字が多い。蛹(サナギ)、蛆(ウジ)、蝮(マムシ)、蚯蚓(ミミズ)、 蜘蛛(クモ)、蟋蟀(コオロギ)、螻蛄(オケラ)、蜥蜴(トカゲ)、蝙蝠(コウモリ)、蟷螂(カマキリ)、蛞蝓(ナメクジ)、蜻蛉(トンボ)といった具合だ。中国ではむかし、虹が動物に擬せられた時代があって、「虹が部屋に入ってきて粥を食べた」とか「井戸の水を飲み干した」などの記述が古書に残されているそうだ。