◆間食

超高層ビル

5月に入院することになった最大の原因は間食であるという結論が、入院早々病院側の評価となってしまった。点滴注射ですっかり元気になり、普通食を食べられるようになった或る日、5階の売店でおやつ用食材を買い込んできた。いわく、ミルクチョコレート、煎餅とピーナッツ、ポテトチップ2種類、ナビスコなどなどである。病室に並べて、密かに食していたら、たちまちナースに見つかり、取り上げられてしまった。この件はあっという間に広まって、先生の耳にまで入ってしまった。

以後、間食が糖尿病の最大の敵であるという認識を常に囁かれ、頭の中に叩き込まれた。さて、退院してしばらくすると、それまで収まっていた腹の虫が騒ぎ出した。入院する前に買い込んでいた菓子類がしこたま残っており、病院から返されたおやつも、ほとんど手付かずのまま残っている。なんという魅力、なんという誘惑、この悪女の誘いに乗らないなんてヤボの骨頂さ。

でも、今までと違うようになったのも事実である。在庫の菓子類を、その表品に示されているカロリー数を書き出し、ないものはパソコンで調べ、一覧表を作る。血糖値を見ながら、それぞれどのくらいつまんだら、血糖に影響しないかを実験しながら、いつの間にか間食が始まった。血糖値に影響が少ないのは深夜の間食だという確信を得たのはつい最近のことで、午後3時から5時の間食はかなり血糖値に影響することもわかった。

要するに口を酸っぱくして叩き込まれた間食は、確かにいいことではないけど、一日に摂る1600カロリーの範囲内であればOKという結論を得てほっとした。昼食が少なめだったら4時過ぎの間食もOK。幸か不幸かカロリー・コントロールをまめにやるようになってからのほうが低血糖になることが多くなった。まことに皮肉なことだが、これが逆の面では有難いことでもある。何故なら、低血糖を理由に堂々と補食できるからだ。

とにかく3食、嫌いなものは出ないけど、ご飯粒一つ、おかずは汁も残さず完食する。これは自分でも意外なほどの食欲だが、それでも3時過ぎとか、深夜過ぎに腹が減る。特にたくさん歩いたときほど低血糖になりやすい。この食欲の秘密といえば、やはりタバコを止めたことに起因すると思われる。寛ぎの時間はタバコの紫煙をくゆらす習慣だったが、それがなくなると、身を処することに苦慮する一方で、とにかく矢鱈と腹が減る。で、いつのまにか、気がついたらタバコを吸っていた。