モチノキ

銀座

普段は地味で、まるで気がつかないのに、ある日突然のように、その存在感を示す木がある。7月の暑いさなか、やたらと目立つのが、白い小さな花を房状に咲かせる木、ネズミモチだ。名前の由来は果実がネズミの糞を連想させ、葉がモチノキに似ているからだと。一方、春先あちこちの垣根で赤い若葉を勢い良く伸ばす植物、ベニメカナメモチだ。夏頃になるとだんだん緑色の普通の葉になり目立たなくなる。名前の由来は、新芽の赤芽がカナメに転訛、モチはモチノキに外観が似ているからだという。

っていうことは、本物のモチノキがあることになるわけで、いってみれば、二つとも似非モチノキということになる。カナメモチはバラ科カナメモチ属、ネズミモチはモクセイ科イボタノカ属、本物はモチノキ科モチノキ属、名前の由来は樹皮から鳥もちを採取するからとある。このモチと名のつく植物は、いずれも他の事象から名前が付けられたことになる。

ガキのころ、学校が終わると、長い竹竿の先にモチを塗り、竿を回しながら、つばきでそれをこねて延ばし、さんごっぱら(三五原)に飛び出していった。むろん、トンボをとるためである。トンボが密集している中でモチ竿を振り回し、竿の先にトンボをくっつけるのである。うまく捕まえたつもりでも竿を手繰り寄せると、羽にベッタリとモチがついてしまい、はがせなかったりした。オニヤンマを捕まえたときなんか、仲間同士で大喝采、一躍ヒーローに躍り出たもんだった。オニヤンマを捕まえた時の、あのズシンと重い手応えはすごかった。いまじゃオニヤンマなんてとんでもない、ギンヤンマ、シオカラやムギワラでさえ見かけない。

「竹とんぼ」は、プロペラと軸によって構成される日本の伝統的なおもちゃだ。竹のひごを削って作った、自家製の竹とんぼは中々うまく飛ばなかった。竹飛ぶ棒、竹飛ん坊、竹とんぼの名前となったともいわれる。そういえば、自分で作った竹馬も、出来上がりも乗り方も一向上達せず、下手糞のまんま、切歯扼腕したものである。

長じて高校時代、野球の練習をする時、真っ先にやるのが運動場を「とんぼ」で、きれいに整地することだった。弱小チームだから、野球場などあるはずもなく、グランドはいつも荒れていた。とんぼとはT字型の整地用具の俗称で、トンボの全身に似ていることからこの名で呼ばれるそうだ。かっこよくいえばグラウンドレーキ、大きな熊手みたいなものだった。