◆アジサイ

アジサイの花

雨に打たれておぼろに咲くアジサイの花は、初夏の風物詩だが、今年は空梅雨で、そのしっとり感をあまり見ないうちに花季を終わってしまった。累々と屍を重ねたように残骸が残されているのは、正直いえば、空梅雨とはいえ梅雨の鬱陶しさを増幅させるだけだ。とはいえサラファン、装飾花が赤は赤銅色、青は青銅色に枯れてしぼんでいるが、よく見るとその真ん中で小さなブルーの花がはじけるように咲いている。これが咲き終わると、アジサイは本当に枯れていくのである。

ガクアジサイはもっとすばらしい。ブルーを例にとれば、咲き始めはコバルトブルーの飾り花、中心の花の蕾ははちきれんばかりに盛り上がっている。次いでブルーの飾り花が青みを濃くしていくにつれ、盛り上がった中心のつぼみが弾じかれるように開き、小さなブルーの花が、白い芯を覗かせながら、一斉に咲き出す。これがまことに壮観で、その勢いが弱くなるころ、飾り花の中心から同じような小さなブルーの花が立ち上がり、有終の美を飾る。

カシワバアジサイは同じように3回も楽しめる。まず始めは蕾の段階、若草色の円筒形がまぶしく眼に映る。ついで、開花、といっても全体が装飾花だから、それが乳白色に変わるだけだが、見るアングルや太陽の位置によって、白の中に淡紅色が滲み出してくる。この色の調和は見事なもので、思わず喝采したくなる。そして装飾花がはじけて、トウモロコシの柔毛のような淡い茶色の
花が咲き出すと、円筒形全体が紅を含んだ淡い茶色に変形、つまり枯れた姿だが、これが、またけっこう、いい風情なのだ。

さて変わって勢いよく咲き出したのがクチナシ、梔子なんて難しい漢字を当てはめているが、渡哲也のヒット曲「くちなしの花」といったほうが馴染みもあるね。そのものズバリ、強烈な香りが漂ってきたら、そこにクチナシが咲いている。この花、甘い香りに誘われた虫、特にアリたちが殺到して、蜜を吸い尽くすから、分厚い純白の花があっという間に薄汚く変色してしまう。だから、撮影は旬の一瞬を切り取らないと、惨めな思いをすることになる。

もっと難しいのが、ほんとの咲き始めの一瞬だ。蕾の段階では、鮮やかな緑の外皮に覆われているが、蕾が割れるに従い、この外皮が徐々に裏返って、満開の段階では花の外側に裏返しとなる。この蕾が弾け始めた一瞬、外側のグリーンがまだ残っている。これを写すのが時間勝負だけになかなか難しい。蕾の段階でマークし、翌朝行ってみると、もう満開になっていたなんてことは日常茶飯事で、けっこう憎たらしい花ではある。