◆夢心地

アジサイ

東北地方では朝9時頃震度6弱地震があったらしい。まだ余震が続いているようだが、大事にならなければいいけど。今日も夏日、週末の天気は久しぶりだそうだが、シャバは暑いね。

「朝来たりなば、昼遠からじ」、10時過ぎウトウトとまどろんでいたら、廊下の騒ぎで目が覚めた。アロハだのハワイだのと大声で叫んでいるから、福島の常磐ハワイアンセンターからフラダンス御一行様でも到着したのかと、寝ぼけ眼で一瞬思っちゃったね。落ち着いて聞き耳を立てていると、ようやく事情がのみ込めてきた。どうやら同じ階の女性患者がめでたく退院することになったらしい。ここで知り合ったオバサン達が別れのあいさつは不吉だからしたくない。その代わり、みんなで「アロハ」っていうことにしているんだそうだ。

これって、いいことだと思ったね。退院といったって色々あるし、ローテーションで追い出される人もいれば、2度と帰ってこない人もいる。だから、別れの言葉は、たとえ「御機嫌よう」でも、「サヨナラ」でも禁句になっているという。ただ、バアチャンたちが胴間声を張り上げて、口ぐちに「アロハ」って叫ぶのははた迷惑だし、はなはだ五月蝿かったね。ナースに聞いてみると、最近のオバチャンたちのノリは早く、たちまちこういう友好的雰囲気になるという。あの集団なら、きっと、アズマサンでももてるわよって、ひやかされたが、よくよく考えてみれば、「でも」とはなんだよう、すっかりバカにされている。

バカにされたことに触発されたわけでもないが、閑だから、この不揃いのリンゴたち、じゃない不揃いに生えてきた頭髪をカミソリで剃って、少しは身ぎれいにしてみようかという気になった。頭髪といっても産毛みたいなもんだが、だからこそ見苦しい。売店で安物の安全カミソリを買い求め、鏡もなしにいきなりジョリジョリと剃り出した。刃がやけに地肌に当たるなあと思いつつも剃り終わり、トイレの鏡で出来栄えを見てやろうと、閉所から顔を出した。とたん、通りがかったナースから「アラどうしたの、頭を血だらけにして」。

トイレに向かう道筋でもさんざ冷やかされ、鏡を見たらもう大変、そこには血まみれの年取った切られの与三郎がいて、こちらをにらんでいた。慌てて、蒸しタオルで拭いたが、血だらけになるだけ。熟年のナースから、「拭いちゃダメ。そのままほっといて乾かしなさい」。大勢のギャラリーの爆笑の声を背に、ほうほうの体で逃げ帰った。バカは死ななきゃ治らない、ああ、つまらぬことで有名人になっちゃった。