◆ご近所

アジサイ

梅雨の晴れ間っていうことなんだろうけど、朝からパッチシ好天が広がっている。きょうは暑くなりそうだが、行き残している場所がいくつも残しているので、無理をしない程度に出かけてみよう。

6人部屋に入室することになった。広い部屋をカーテンで6つに仕切った部屋割で、一人当たりベットぐるみで1坪弱の狭さだ。ベッドのほかには床頭台と貸テレビがあるのみ、なんともわびしい限りだが、入ってみれば、ここだって天国みたいなもんだ。隣の身動き一つも聞こえてくるくらいだから、夜のいびきや歯ぎしりが気になりそうだけど、コチトラ睡眠薬さえ飲んじゃえば、ダレよりも早く寝入ってしまうタイプだから、ぜんぜん問題はない。ただ、見舞いに訪れる家族の話など、いやでも耳に入ってくるから、どういう境遇なのか、病状なのかは何となくわかってしまう。

聞こえてくる話に耳を貸していると、みんなそれぞれ大変だ。斜め前の67歳の男性は血液性のガン、白血球が少なくなる病気にかかっていて、簡単に抗がん剤を投入できない。お隣さんは77歳の高齢、肺に腫瘍が二つあって、一つは近日中にレーザーで切り取るが、深い位置にあるもう一つの方は、切除に時間がかかるから、体力的に持つかどうか、などけっこう深刻な話が聞こえてくる。でもお隣さん、すっかり悟りきっているようで、ひどい咳をしながらも、どうやら時たま、こっそりとタバコを吸っているらしい。ダレも知らないようだが、コチトラにはバッチシわかるんだよなあ。

不可思議なのは対面の住人、いかにもオタクっぽい50歳前後の変人だ。普段は部屋に籠りっきりなんだが、飯の時だけは存在感をあらわにする。とにかくガツガツ食い、ピチャピチャ飲み、ガチャガチャ食器を鳴らす。不可思議なのは、夜食が終わると、切れない電気カミソリ(音で電池が切れかかっているのが分かる)で、ひげをあたり、そそくさと身支度して出ていくのである。たまに出あったナースがいってらっしゃいって声をかける。

ダレだって興味を持つよねえ。さっそくナースに聞きただすと、この人、某コンビニの夜間店長で、夜9時から翌朝7時までの勤務をこなしているという。コチトラと同じ糖尿病患者でインシュリン治療をしているんだが、こんなことって許されていいんだろうか。でも医師も認めているようだし、真面目そうではある。病院にいるといろいろ不思議な体験をするもんだね。