◆職業野球

フジのある光景

小学生の時、ほかの子供たちより恵まれていることが一つあった。オヤジの友人が、スポーツ誌「野球界」を発行する会社に勤めていたことから、週末になると後楽園球場の入場券が手に入り、ジャイアンツの試合や都市対抗の試合を頻繁に見ることができた。ジャイアンツで川上哲治千葉茂が活躍していた頃である。おかげで、あの、大監督・水原茂が「ただいま、シベリアより帰還しました」と後楽園左側フェンスよりさっそうと現れた、あの歴史的光景も目の当たりにすることができた。

ジャイアンツは投手、藤本英雄、捕手、多田富久三、一塁手川上、二塁千葉、三塁宇野光雄、遊撃手、白石浩、左翼手、平山菊之助中堅手、呉新享、右翼手中島治康というそうそうたる布陣だった。その後、剛腕、別所昭の引抜き、エースとなる大友工、川崎徳次の新加入、強打の外野手、青田昇の復帰、ショートストップの名手、平井三郎、技巧派打者、南村不可止が西日本パーレーツから移籍、ハワイから攻守三拍子そろった外野手、与那嶺要、捕手、広田順と、綺羅星のごとき陣容を揃えるチームとなったが、強いけど、新鮮味には欠けていた。

与那嶺が見せたセーフテイバンドには目を見張らされたし、藤本のスライダー、別所の懸河のドロップ、平山が再三見せた塀際の魔術師ぶり、青田の豪打、川上のボテンヒット、広田の強肩、オトボケの宇野、けれん味たっぷりの千葉、タフだった大友、優等生揃いで、チャンスやピンチに弱い現役選手と違って、当時の選手には観客を喜ばせる華麗さとショーマンシップが満ち溢れていた。

日替わりのように、新しい選手が殊勲打を打っているパリーグを見ていると、ほんとうらやましくなるね。二軍で活躍した選手がレギュラーに抜擢され、たちまち大活躍する。選手層が薄いってこともあるんだろうが、上の目もちゃんと届いているようだね。それとチームの雰囲気がいいから、みんなノビノビと野球を楽しんでいるのがいい。

ひるがえって、いまのジャイアンツ、選手層の厚さはグンバツだが、バッテイングがよければ守備が悪い、守備が良ければ打撃が振るわないなど、一方に偏った選手ばかり、攻守走3拍子揃った選手など一人もいない。優等生たちは怪我が多く、シーズン通しての活躍ができない。とにかく粒ぞろいのはずが欠陥商品ばかり抱えている。その上、指揮者たる監督にも、あれこれ欠陥が出ているんだから、今更なにをいっても始まらない気がするね。