◆新入社員

ハナミズキ

余程よんどころない時は別として、ラッシュアワーには電車に乗らないことにしている。先日昼下がり、市ヶ谷駅までの地下鉄有楽町線はまさにそのラッシュアワーさながらの混雑ぶりだった。乗客の大半は一様に黒っぽいスーツを身にまとった男女の新入社員と思しき面々、普段乗りなれてないから、あっちに動きこっちにと動く。久しぶりにサラリーマン時代の匂いをかいだけど、こっちもよる年波、その波の流れに中々シンクロできなかった。

市ヶ谷駅から中央線に乗り換えると、今度は妙齢の女性集団の真ん中に入ってしまった。決して濃くはない化粧のにおいが充満し、かなり鼻についたが、悪い気はしない。カノジョ達、ほとんど全員が白いスーツ、さっきとはまったくの様変わりである。千駄ヶ谷駅で一緒に降りたのだが、コチトラは新宿御苑方向へ、カノジョ達は信号を渡って津田塾の構内に入って行った。名残惜しげに秘かに見送ったのだが、多分卒業式だったんだろう。

ふと思ったんだが、どちらも、みんなおんなじ恰好をしている、つまり、モノトーン。ぼくらも入社するときはむろんモノトーンのスーツ姿だったが、一般的にブルーが多かった気がする。ところが今の新入社員たち、男女ともオールブラックスである。むかしは黒い生地なんて冠婚葬祭用にしか使わなかったがなあ。そうでなくても、今の若者は没個性だから、みんなおんなじ恰好をされたら、上司だってダレがダレやら見分けがつかないだろう。

「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」って、毒舌が売りだったタケシの名文句があった。あの言葉、当時かなり逆説的な怖さを感じたものだが、いま考えれば、この言葉、現代の若者の風潮にぴったりと合致するねえ。タケシに先見の明があったなんていいたくはないが、まさに正鵠を得ていると思うなあ。自分のことを天才と勘違いし出してから、タケシの番組は数ばかり多いが、大いに生彩を欠いている。出る番組出る番組、まったくつまらん。天才とバカは紙一重、なまじ頭がいいだけに、どつぼにはまってしまったようだ。