◆復活

ギョイコウ

ずっと低調だった天声人語が、どうやら長い眠りから覚め、ようやく春を迎えつつあるようだ。担当者の違いがこんなに顕著だったのかと思えるほど、生き生きと甦ってきた。600字前後の中に、いかに秀逸な文章を盛り込むかが毎日の戦いになる。数年前、パソコン修行の一環として、毎日、天声人語の文章をインプットしていた。読んで中身を解釈しながら打ち込むわけだが、当時の天声人語はそれだけの価値はあった。どうやらようやく当時の勢いを取り戻したようだね。

3月31日から、朝日新聞と読売新聞の活字が大きくなった。読売の方は見ていないから、実感はないが、そういわれて、それ以前の活字と比較してみて、初めてわかる程度だ。でも、読みやすくなったような気はする。愛読している「天声人語」は大きく形態が変わって、ちょっと違和感があった。これまで1行11字で計58行だったものが、1行18文字で36行に変わり、全体の分量も6字増えたそうだ。

その一方で、読売の「編集手帳」は朝日と同じように活字を大きくしたのだが、こちらは「天声人語」とは異なり、77文字分短くなってしまったという。これは書き手にとっては、慣れるまで大変な試練
となるだろうね。全体で600字程度から77字も減ってしまうのは、まさに青天の霹靂みたいなもんだ。活字が大きくなった分、「編集手帳」の文字数が削減されたわけだが、「天声人語」は紙面のレイアウトの工夫で、むしろ文字数を増やすことに成功した。

そのかわり、朝日の読者は長年なじんできた、あの細長い欄とは違う、やや太り気味の欄に違和感と戸惑いを隠せないことになる。1行の字数が増えることによって、文章の内容にゆとりやリズムが感じられる新「天声人語」に期待する。「編集手帳」はインターネットで愛読していたが、内容に読み応えがあり、ここ数年ずっと、「天声人語」を圧倒してきたと思っている。それだけに、お気の毒様っていうしかない。

31日の「編集手帳」の書き出しは片岡直次郎がそば屋の暖簾をくぐっていう。「天で一本つけてくんねえ」。これは11字、従来だったら、<天ぷらそばに燗酒を一杯くれ>と13文字になる。11字に短くなった方が、粋で耳に心地よいって、筆者は書いている。ちょっと負け惜しみにも聞こえるが、このように文章に弾みがついてくれば、苦労のし甲斐があるっていうことだろう。