◆下天の夢

チューリップ

「余は織田信長なるぞ」、救急車で運ばれた病院のベッドの上で、コチトラは仁王立ちになり、厳かに名乗りを上げたそうだ。看護師たちはあとで、にょうぼに認知症なんですかって聞いたという。本人にまるで記憶はないが、にょうぼが立ち会っているので、どうやら本当だったらしい。インフルエンザにかかり、行きつけではない医院でタミフルの予防注射を受けた2日後の狂態だった。ジジーにもタミフルが悪影響を及ぼす貴重なデータだったのに、病院は単なる狂人扱いで済ますなんてひどいよ。

実をいえば、自ら織田信長だと名乗ったわけではないようだが、信長になりきったような行動だったという。いまになって考えればなんで信長だったのかよく分からない。なり変るんなら、当然敬愛すべき鬼平長谷川平蔵)じゃあなくちゃおかしいのに、どうしてなんだろう。この騒ぎの後、胃潰瘍を発症し、行きつけの病院でレーザーによる潰瘍退治の手術を受けたんだっけ。思いがけないことばかり起こったきっかけとなったのが、昨年の春分の日だった。大型連休中はずっと病院のベッドの上だった。

季節が移り変る木の芽時となると、どういうわけか体に異常が出るんだよなあ。呼吸困難になって2度も点滴を受けたのは4月末だったが、どういうわけか休日に発症するっていうのが、わがままというか、やばいんだよなあ。通院するにも入院するにも、病院が休みなんだから、にょうぼが苦労することになる。

そして、今年。なにごともなく無事に過ぎようとしている。今年はサクラもたっぷり見られそうだ。だけど、ちょっと待てよ。いままでみたいな積極性がイマイチ欠けているようだ。待ちかねた春なのに、心が一向に燃え上がってこないんだ。花を撮るのも飽きたなあ、出かけるのが億劫だなあ、家で寝ている方がいいなあ、そんな考えが先行してしまうのだ。そんな気持ちを押し切って出かけてしまえば、今まで以上熱中して花を撮りまくっているくせに。