◆寓話

コウバイ

第一話
新宿の駅頭で小学生の一群による募金活動が行われていた。同級生の一人が生まれついての心臓病で、米国で移植手術を受けるための資金が1億2000万円必要なのだという。小学生に交じって、まだ若い両親が涙ながらに訴えていた。「どうか、息子の命を救ってください!」

オレは新宿場外馬券で、当たり馬券を取りかえるつもりだったが、その中から当り馬券1枚を寄付することにした。「この馬券は間違って入れたのではない。どうぞ、ご子息の手術の足しに」と書いたメモと馬券を1万円札で包み、小学生の捧げる基金箱にそっと入れた。「ありがとうございます」、という子供の声を背中で快く聞き流した。

夕方のテレビはどのチャンネルでも、ビッグニュースで沸騰していた。ナゾの馬券王子の話である。大勢のカメラマンと記者が新宿駅頭をバックに、興奮気味に騒いでいる。両親がインタビューに引っ張り出され、小学生たちが入れ替わり立ち替わり、記者たちの質問に当惑しながら答えている。いつものように、物知り顔の専門家がもっともらしい解説といい加減な推測をしている。キャスターの声は上ずっていて悲鳴に聞こえた。募金箱の中から出てきた馬券は、なんと3連単55万x1万円、5、500万円の当たり馬券だった。

第二話
オレは12月の深夜、蒲田駅近くのキャバレーの駐車場で、一人苦しんでいた。建て前で駆け付け三杯を一気飲みし、関係者と連れだってキャバレーに繰り込んだ途端、むっとした暖かい空気に触れ、胃の中のものが一気に逆流してきたのである。オレは慌てて口元を手で押さえながら、駐車場に駆け込んだ。ふと気がつくと、一人の男が、この寒い中、一生懸命にオレの背中をさすっている。顔を知っている程度だった工事関係者の一人だった。

カレが自営業を始めたとき、オレは無担保で2000万円を貸し付けた。間もなくして、その会社は倒産し、カレは消えてしまった。オレはカレの家に乗り込み、家中を探し、息子と娘名義の貯金通帳と印鑑を、泣き叫んで抵抗するにょうぼ子供を突き倒し、借金のかたに取り立てた。後日、蒲田界隈で、秘かに評判となったヌード写真が出回った。カメラ自慢のカレが写したにょうぼの晴れ姿だった。