◆ビオラ

チョウジギク

フランスの作曲家フランクは作品の数は少ないが、いずれも傑作ばかり、その重厚なメロデイと緻密な構成には定評があった。いまでも続いているNHK−BSのクラシック音楽放送、深夜3時間ほどの時間帯で、プログラムの合間の休憩時間に流される曲がある。いつも同じ曲で、もう、耳にタコができるほど、そらんじているのだが、曲名がわからない。弦楽4重奏で流れるように演奏されているが、以前からフランクっぽいなって思っていた。でも分らないまま、この曲が流れてくると、ほっとするとともに、いつ咽喉に刺さった魚の骨が取れないようなもどかしさも感じていた。

きのうだったか、3チャンネル「芸術劇場」で、バイオリンとビオラの独奏会があった。器楽による独奏はあまり好きでないので、原則として見ないことにしているが、たまたま、放送欄を読んでいたら、ビオラ独奏、清水直子とあった。曲目はフランクのバイオリン・ソナタとある。あれ、これって、もしかして、ベルリン・フィルの首席ビオラ奏者の清水さんなのかなって、そして、もしかしてフランクのこの曲こそっアレじゃなかって、急に興味が出てきて、樫本大進のバイオリンは聞き流して、その時を待った。

清水さんはベルリン・フィルではクラウデオ・アバトの時代からすでに気になっていたが、サイモン・ラトルになって、一層の出世を遂げたようである。なにしろ、目立たないビオラ部門だが、たまにカメラが映し出すと、いつも反り返った、けれん味たっぷりの演奏ぶりで、いやでも目につくのだ。さて彼女の演奏会の時間となり演奏が始まった。ところが、これが意外に地味目だったのには驚かされた。ベルリン・フィルで見慣れた闊達な演奏ではなく、じっくりと丁寧に音を紡いでいく。

ビオラの豊潤な音で演奏された、フランクのバイオリン・ソナタ、予想にたがわず、休憩時間で流されていたアノ曲そのものであった。この曲が流れだすと、しばし陶然として聞き惚れたものだ。なにせ4分足らずの休憩時間だから、いつもさわりの部分で終わってしまう。通して聴けば聴くほど名曲だったってことが分かった。原曲を弦楽4重奏に編曲して演奏しているようだ。今宵思わぬ収穫にニンマリしたものだったが、肝心の録画ができなかったのが残念至極、3チャンだったから、録画可能だったかもしれないのに。