◆秘密のアッコチャン

ヘクソカズラ

わざわざ遠くに出掛けなくても、自宅界隈には四季折々、色んな花が群生する秘密のアッコチャン的な場所がある。そろそろ、咲き始めるんじゃないかって、期待に胸をときめかせ出掛けるのは嬉しいものである。ところが、ここ数年、乱開発が進んで、そうした秘密の隠れ家がドンドンと姿を消していく。そのたんびに悲しい思いをさせられるわけだが、なにも乱開発だけじゃない、都営住宅の小さな庭に丹精込めて花を育てていた人、おそらく大抵がお年寄り、こうした人たちもこの世から姿を消しているに違いない。

アリッサムの群生は見事だったなあ。車がひっきりなしに行きかう幹線道路の信号脇、ガソリンスタンドの入口そば、街路樹の下のわずかな空間に色とりどりのアリッサムが咲き乱れているのを見たときは感動した。スタンドの人に聞いてみたが、ひとりでに生えて、ひとりでに広がっていったらしい。

スイフヨウといえばこの場所と決めていたのが、豊洲の路地裏にある保育園の裏手、見事な大木に育って、だれの手入れもないままに悠然と酔いにふけっていた。夕方になると、白い花にぽっと紅が差して、なんとも色っぽく陶然と見惚れていた。木の下にははかなく散ったつぼみの数々、一日花の宿命が、限りない寂しさを誘うのだった。それが、人口増加による保育園の増設工事で、見るも無残な姿に変わってしまった。小さく伐採され、移植されたスイフヨウが花をつけるのは何年先だろうか。

散在する都営住宅の一つ、その周りを囲む垣根に、夏になると、ヘクソカズラがびっしりと花をつける。雑草とはいえ、めったに見ることがないから、見つけたときは嬉しくて、嬉しくて、思わず大声で「ワオー」って叫んでしまったよ。紫がかった花は妙に上品で、整った顔をしていた。小さな花だから、風に吹かれたりして、中々うまく撮れないのが、これまた一興だった。それが、都営住宅の改築工事で、すっかり取り払われてしまった。取り払う方は邪魔な雑草って当然思っただろうし、仕方がないけれど、また一つ夏の楽しみが消えてしまった。

繁殖力が強くて嫌われる「セイタカアワダチソウ」、「ユキノシタ」なんかも道路端にどこでもあったけど、マンション建設のあおりを受けて消えてしまった。アワダチソウの黄色い花は悪くなかったし、ユキノシタの大文字型に咲く可憐な花は、一服の清涼剤だったのに。