◆定礎

アサガオ

最近聞かなくなった言葉に「悪女の深情け」というのがある。悪女がいなくなったのか、そんなことはないね。ただ、ドロドロした情念とか、オドロオドロとした妖しさを持った女性が少なくなったのは事実だね。女性特有の押し付けがましさをソフィストケイトに隠してしまえるテクニックがいつのまにか身についてしまったんだろうか。それに引き替え、男性はちっとも変り映えしないようだね。ある意味で単純明快、ちっとも進歩してないようだ。

それにつけても「悪女の深情け」を思わすような鬱陶しい梅雨空、よくも飽きもせず頑張っているね。梅雨前線が日本列島にピタリと張り付いて離れそうもない。梅雨に居座られると、腰の痛みが疼き出すし、出かけるのも億劫になる。家にばかり閉じこもっていると、蒸し暑さなんかすっ飛んでしまって、部屋を通り抜ける風の涼しさに身震いしてしまう。それはそれで、ちっとも文句はないんだけど、欲求不満は解消できそうもない。なんてぼやいていたら、なんときのうは朝からピーカン、久し振りに見る青空がやたらとまぶしい。きょうも薄曇りだが、お天道とうさんが顔を出している。いよいよ本格的な夏の到来か。

ビルなど大きな建物の1階でよく見かける石や金属のプレートに書かれた「定礎」の文字。あれってけっこう気になるね。広辞苑を引いてみると、「礎石をすえて、建物の工事を始めること」とあるが、これじゃたいした説明にはならないねえ。建築関係者によると、「定礎はもともと、西洋建築のコーナーストーンに由来し、本来は建築初期の段階で行われるものだった。しかし、現在の日本では、基礎工事が終わり外装工事に入る前に、今後の工事の安全を祈願して、中締めとして定礎式を行うようになった。今では方角に関係なく、正面玄関近くに設置するのが、一般的で、併記される日付は工事の完成日」だそうだ。

定礎石の奥には鉛や銅、ステンレス製の「定礎箱」という箱が埋め込まれ、中には、発注者や施工者名を記した板など、建築物にとって記念になるものが入れられていて、建物が壊されるときまで取り出すことはできない。商業ビルではほとんどに設置されていて必須かと思われた定礎だが、義務とか決まりではない。「東京ミッドタウン」や「六本木ヒルズ」など、最新の複合ビルでは定礎の代わりに建築に関わった人たちの名前が書かれた記念のプレートが設置されているそうだ。