◆夏の風物詩

サラノキ

休日になると、窓の下をマイクで案内しながら車がゆっくり通り過ぎる。「開化伝を無料で引き取ります」って聞こえてくる。なんのことやらって思っていたが、「廃家電」といってるらしい。要するに昔でいう屑屋の一種なんだねえ。今じゃあ、ほとんど見かけなくなっちまったけど、屋台を引きながら町を流し売りする商売ってけっこう多かったね。「風鈴屋」、「虫籠屋」、「チャルメラ」、「竿竹屋」、「鋳掛屋」、「羅宇屋」、「金魚屋」、「豆腐屋」、「納豆売り」、「しじみ売り」、「傘の修理」、「屑屋」。

「風鈴屋」は屋台に風鈴を沢山吊して、良い音をさせながら静かに歩いて行く。色とりどりで、図柄もいろいろあって、いかにも涼しげで、夏の風物詩だった。「虫籠屋」は、秋の虫たちも一緒に入っている、籠付きを売っていた。鈴虫など鳴く虫は沢山の種類があるし、虫籠も職人の手造りで、それなりに高価だったから、コドモには駄菓子屋で売っているキビガラの虫籠を買うのが精一杯だった。

金魚屋は春夏の昼下がり、「キンギョエー キンギョ」という勇ましい声を上げながら、天秤棒の前後に小さな金魚鉢を積んで、売り歩いていた。中に比較的大きな鉢があって、小さな金魚が沢山入っていたが、あまり良い金魚はなかったようだ。チャルメラとは特別なラッパのことで、支那ソバ屋が屋台を引きながら吹いてくる。あの一種悲しげな音は、冬の寒さと相まって郷愁をそそられたもんだった。昔はラーメンなんていわず、ズバリ「支那ソバ」。入っているものは、薄っぺらな焼き豚1枚と、ゆで卵の半分、支那竹少しと鳴戸1枚。

大八車の荷台に竹竿を沢山積んで「たけヤァー さおだけー」と勢いの良い声で叫びながら流して来たのが竿だけ屋。いまでも同じようなセリフがマイクで流れてくるが、軽トラックの荷台に積まれた中身はまったく様変わりしてしまい、情緒もくそもなくなってしまったね。豆腐屋は時計代わりになっていて、夕方にこのラッパを聞くと、遊んでた子供たちは一斉に家路を急いだものだった。あの変わった形の真鍮のラッパのような音は懐かしいなあ。この音を聞くと、オフクロに鍋とバラ銭を渡され、「何丁買っておいで」っていいつかったのを思い出す。年をとってくると、やたらと昔のことを思い出す。それも浮かんでくるのは、よかったことだけっていうのもご都合主義なのかな。