◆スター

しわくちゃ

一頃、テレビでは「にしきのあきら」がスターなんて敬称をつけられて、ほくそ笑んでいたけど、あんなのは、オレにいわせればスターダストだったね。ほんとのスターっていうのは、やはり、長谷川一夫片岡千恵蔵、市川歌右衛門だろうか。いずれも小男の割には顔だけが異常に大きかった。いずれも大根役者ながら貫禄は十分、口跡がはっきりしないのも特徴で、しかも地方訛りを平気で使っていた。当時の殺陣師は舞うように人を斬るスタイルを重用したから、動きも優雅だった。

この頃のわがアイドルっていえば、恐れ多いけど、一富士・山本富士子、二鷹・有馬稲子、三なすび・若尾文子八千草薫、岡田まり子、そして、別格官幣大社、神様のようだったのが、むろん、原節子。同じぐらいの年齢の美女たちが、みんな健在っていうのも嬉しいことだね。だけど、かって憧れの対象だった女優たちの現在の老いた姿なんか見たくもないね。夢は夢として記憶の底に大切にしまっておきたいからだ。

「やまふじ」っていえば、それこそすこぶるつきの絶世の美女。以前、ゴルフ場で一緒になったとき、アレッ厚化粧だな、意外にチビだな、その割には足が太いななんて、見ちゃあならない美女の裏側を垣間見て、妙に感心したもんだった。だが、画面上では着物姿が多いんだし、そんな嫌なものは全て隠れてしまうしなあ。テレビにはめった登場してこないが、舞台などでは全国的に座長公演を行っていて、健在ぶりをはっきしているという。舞台だと厚化粧で老いを隠せるからなあ。

第一回ミス日本の看板を背負って映画界入りした山本富士子が、来年、芸能生活55周年の節目を迎える。輝くような美ぼうで美人の“代名詞”にもなった大女優が歩んできたのは、平たんな道ばかりではない。映画界から追放処分を受け、テレビ、そして舞台へと追われるように活躍の舞台を移してきた。1956年公開の「夜の河」(吉村公三郎監督)は、京都の染物屋に生まれ、染色工芸家として自立する女性と、妻子ある中年の大学教授との愛を描いた作品。情熱的で、信念を貫く、毅然としたヒロインを、凛とした気品と美しさで演じ切り、デビュー3年目にして、美人女優からスター女優へと鮮やかに駆け上がらせる作品となった。