◆真夏日

ユリカモメ

太陽がギンギラギンにさりげなく、照りかえる、30度を超える真夏日。広大に広がる晴海運河の岸辺にたたずむと、川面を渡る涼しい風がほほを揺らし、それほど暑さを感じない。その心地よさに誘われて、久し振りに日光浴してしまった。ここしばらく、動きをサボちゃっていたから、生っちろい肌が気になってしょうがなかったのである。そうかといって以前ほど、野放図に直射日光を浴びていたら、体力も弱っているから、たちまち熱中症になってしまう恐れもある。そんなわけで、日光浴も1時間ほどで中断し、木陰で寝そべって、川面からの涼風をたのしんでいた。

ひねもすのたりのたりと、不規則に照り返していた水面が、なんとなくワサワサとざわめき、光が乱反射し出した。よく見てみると、魚が群れているようだ。時々、元気のいいのがあちこちで水上をはねている、若いボラの大群だ。すると、いつのまにかユリカモメが集まって水面の上を行きつ戻りつし始めた。ユリカモメは優美な姿と上品ないろどりで、まるで平安貴族のように雅さを感じさせるが、その性格と動きは貪欲、獰猛、狡猾、俊敏である。空中でホバリングしていると思ったら、くちばしを下にして、一直線に水面に突っ込み始めた。狩りが始まったのである。

日本の古典文学に登場する「都鳥」は、ユリカモメを指すとする説が有力である。隅田川に多く見られる鳥で、東京都の都鳥に指定されている。古くは「伊勢物語」に、「名にし負はば いざこと問はむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと」、なんてロマンテイックに詠じられているが、いにしえ人は、その姿かたちの優美さだけを見て感動したらしい。見てくれだけで判断してしまう軽率さは、日本人の伝統なんだろうね。

ボラは再三書いてきたように、ブリと並ぶ出世魚の一つである。ブリと違うのは、名前が変わっても漢字表示は、常に「鯔」一文字である。関東ではオボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→ボラ→トド、と名前が変わる。 「トド」は「これ以上大きくならない」ことから、「とどのつまり」(鯔の終まり)の語源。「イナ」は「若い衆が粋さを見せるために跳ね上げた髷の形をイナの背びれの形にたとえた」との説から、「いなせ」(鯔背)の語源。また、「オボコ」は子供などの幼い様子を表す「おぼこい」(鯔い)の語源となっている。

ボラのメスの卵巣を塩漬けし乾燥させたものが佐賀県名産の「カラスミ」だが、そのほとんどが、スペインやイタリアからの原材料輸入に頼っている。現地では、魚卵を食べる習慣がないので、獲れたら捨てていたボラが高値で売れるんだから、笑いが止まらないそうだ。