◆ドンブリ

アジサイ

牛丼、天丼、親子丼、それぞれに共通する「丼(どん・どんぶり)」はあのちょっと深くて大きな器を指す言葉だ。しかし井戸の井にヽが付くだけでなぜあのどんぶりになるのか、関係がないように思える。あの器や鉢をどんぶりと呼ぶ理由は諸説あるが、江戸時代に一杯盛った料理を出した「慳貪屋(けんどんや)」が使った鉢が「慳貪振り鉢(けんどんぶりばち)」と呼ばれていた。これを縮めてどんぶり。一方「丼」の字は井戸の中の水を表す字で、物が落ちた時の「どぼん」や「どぶん」という音に繋がることから、どんぶりの音を当てたというわけ。無愛想のことを、「突樫貧」というが、この語源もここら辺りから来ているんだろうなあ。

どんぶりと呼ばれる大きな袋があったことから、無造作に放り込む様をどんぶりと呼んだとも言われている。ちなみに無造作、大雑把にお金を勘定することを「どんぶり勘定」と言うことがあるが、これはどんぶり鉢とは無関係。職人や商人が使う前掛けに付いた大きな物入れことで、ここにお金を入れて大雑把に出し入れしていたことに由来している。

本を出版することを「江湖に問う」、読書をする民衆を「江湖諸賢」、明治時代には「江湖新聞」が発行されていた。中江兆民が「江湖放浪人」って呼ばれていたのは知っているが、近江出身だからとばかり思っていた。「公け」って言葉が一般的にはパブリックな概念として認知されているが、「公け」は元来「大きな家」を意味し、実は下位を包括する言葉で、平たくいえば、「お上」のことをいう。

実質的には公より江湖のほうが英語のパブリックに近い。「江湖」は唐代の禅僧が江西と湖南に住む2人の名匠の間を往来して鍛錬を受けた故事に由来する。中世には放浪者が行き交う空間を意味し、明治時代初期でも時代の転換期に現れるような、国家から自立した新しい人々を指していた。確かに江湖が公けの意味だったなんて、初めて聞くような気がするね。まあ、言葉としての響きも悪いし、漢文調のいわゆる古臭い美文体って感じだから、死語となったのもやむを得ないかもね。