◆九牛の一毛

ヒゴミズキ

ガス湯沸かし器による一酸化炭素(CO)中毒事故が相次いで報告されている。CO中毒事故といえば、一昔前は火鉢やコタツの炭、練炭、豆炭が主な原因だった。我が家でもオバアチャンが何度もコタツで倒れていた。コタツには火持ちのいい練炭が入っており、転寝しているうちに軽い一酸化中毒になってしまうのだ。でも大事には至らなかった。なぜなら、空襲で焼け残った我が家は、少し傾いており、窓や障子、唐紙もきちんと閉まらなかった。お陰で冬は隙間風がビュービュー通り抜け、雨が降れば雨漏りがし、タライやバケツを持って狭い家の中を駆けずり回った。

唐突だが、「汗牛充棟」は蔵書家のこと、牛つながりで、「牛耳を執る」は主導権をとる、竹富島を走るのは「牛車」(ぎっしゃ)、「蝸牛角上の争い」の蝸牛はカタツムリのこと、つまらないことにこだわった争いをいう。「九牛一毛」とはたくさんの中でもごく僅かの喩えだ。そして、一毛つながりで出てきた諺が「一糸乱れず」だ。改めて説明する必要もないが、ここで使われている一糸とは「針と糸」の糸のことではないのが面白い。

メートル法換算になるまでの度量衡で、比率を表わす表示として使われていたのが、割、分、厘、毛、糸である。いまでも野球などでは打率や勝率などで使われている。例えば3割3分3厘3毛3糸は0、33333ということになる。まあ、野球の場合では、精々厘止まりだが、いつだったか忘れたが、首位打者争いが厘では決着がつかずに毛の単位まで入ったことがある。ダレとダレだったかなあ。

そして何といっても伝説と化しているのは、1982年、大洋ホエールス・長崎啓一と中日ドラゴンズ田尾安志との壮絶な首位打者争いだった。大洋は長崎に首位打者を取らせる為に10月18日の対中日戦でことごとく田尾を敬遠し、ファンのブーイングをかった事件である。この試合の結果によってリーグ優勝の帰趨が中日・巨人のいずれかに決するという重要な一戦でもあった。結果として首位打者は0,351で長崎のものとなったが心中さぞ複雑であったに違いない。