◆変な名前

オオイヌノフグリ

日本魚類学会は、「メクラ」や「オシ」など差別的な言葉を含む魚の名前の改名を決めた。泳ぎが不得手で海底をはうように進む姿から名前が付いた「イザリウオ」は、「カエルアンコウ」に、簡単に捕獲できるため「バカジャコ」と呼ばれるキビナゴ属の小魚は、日本では沖縄県にのみ生息するため「リュウキュウキビナゴ」とした。どんな名前にも歴史があり、言葉狩り的に変えてしまうのはバカげてはいる。だけど、間違ったイメージのものまで、絶対に変えてはいけないっていうこともなかろう。

特別天然記念物の「アホウドリ」もその一つだ。英語ではアルバトロス、コルフ好きにはまるで夢のような言葉、イーグル(鷲)よりもずっと魅力的な響きが満ち満ちている。地上ではヨチヨチ歩きしかできず、簡単に捕まえられるから、乱獲され、ついに絶滅寸前まで追い込まれた。しかし、アホウドリは風をうまく利用すれば、2m半もある大きな翼で空を舞い、日に1000kmも飛ぶことができる。フランスの詩人ボードレールはこの鳥の飛ぶ姿に憧れ詩を書いた。上田敏はその詩の中で、アホウドリを「沖の太夫」と訳した。この名訳を使えば、アホウドリのイメージはまったく変わってしまうんだけどねえ。

早春になると、道端で明るい陽光を受けて、キラキラと輝いているように咲き乱れる青紫色の小さな花、いくら雑草とはいえ、「オオイヌノフグリ」(大きな犬の金玉)っていう名前は、あまりにもひどすぎる。繊細な色模様、微妙な光沢、深みのある紺青色、日当たりのいい場所で、キラキラ光っているのを見ると愛しい。あまりにも小さすぎるので、道行く人は、無情にも踏み潰してしまう。でも、雑草って強いね。しばらくすると何事もなかったように、しれっとした顔して咲き誇っている。

夏ごろ、ツタの絡まるような風情で咲き誇るのが「ヘクソカズラ」、葉っぱがとがっていることからつけられた名前の「ママコノシリヌグイ」(継子の尻拭い)、これまた無残な名前だ。ウメモドキなんて名前も、最初からウメには勝てない運命となる。植物学の泰斗、牧野富太郎も晩年は、新種のキクに「ハキダメギク」だなんて、とんでもない名前をつけた。名付けた種類があまりにも多すぎたので、ボキャ不足になったのかもしれないが、ボケ気味だったとはいえ、ちょっとデリカシーに欠けたよね。