暮れなずむ

あっという間の1月だった。どうして月日の経つのはこんなに早いのだろう。連日好天気に恵まれ、冬という季節感をまったく失ったまま、2月を迎えてしまった。梅はとっくにほころび、紅梅も咲き出した。桜の開花は早ければ東京都心が3月22日、大阪市が24日。日本気象協会は29日、桜の開花予想を出した。春先まで暖かい日が多く、各地で平年より数日早いという。 今年はどうやら冬を通り越して春になってしまいそうな気配だね。
 
どこの馬の骨とも知れない冴えない姿、小身短躯、総髪の髪を首の下までたらし、馬ずらでボソボソと歌う、ルンペンのようなグループ。時代遅れの田舎のアンチャンが「暮なずむ町の」なんて歌いだしたときは、正直ぶっ飛んだね。こんなシャレた言葉が、かっぺ兄ちゃんの口から飛び出すなんて、そのあまりの違和感が珍妙だったからである。その田舎のあんちゃんが武田鉄矢だった。そのしゃべりのうまさはいまじゃ業界一といえるね。

「暮れなずむ」、いい言葉だよねえ。「しとひ」と同様、「ずとづ」、いまでも常に悩まされている子音だ。「暮れなずむ」は夕暮れが馴染んできた、っていう意味だろうから、なじむの文語体、だから「し行」の「なずむ」が正しいんだろう。こういった調子で、語源に遡って考えなきゃならないから、「ずとづ」に遭遇すると、思わず考え込んでしまうのだ。「しとひ」にはそうした余地がまったくない。何故なら、生まれついてからずっと植え込まれている遺伝子の仕業だから、永遠の命題みたいなものだ。

「小夜更けて」は「暮れなずむ」後にやってくる情景だが、暮れなずむが春や夏を思い起こすのに対し、「小夜更けて」は晩秋から冬にかけての時期にふさわしい気がする。戦前から戦中にかけて、宝塚歌劇・男役のトップスターとして君臨した「小夜福子」は、この言葉から芸名を取ったということで有名だった。「霧立のぼる」なんて、かっこいい男役のトップスターもいたなあ。小夜とは「日が暮れて「あたりが薄暗くなる頃から真っ暗になるまでの時間」、つまり「すぐに終わる宵闇」の事である。