消え行く町名

東京を離れることはめったにないので、地方のことは、得意分野である、祭り、難読地名、難読駅名、地理以外のこととなると、まったくお手上げだ。福島、和歌山、宮崎の各県知事が天の声を発して、官製談合を蔭から操っていたなどの記事を読んでいても、いま一つピンとこない。だけど、石原都知事が知事の特権を利用して、公私混同しているなんてニュースを読むと、たちまち反応する。

折に触れて、東京から由緒ある地名が消えていくのを嘆いているが、同じ事情は地方都市でも起こっているようだ。いま、市町村合併で消えてゆく地名も多い。新しい自治体名の下に旧町村名を残すところもあれば、消したところもある。長く親しまれた地名でも、明治から昭和の合併の歴史の中で、町村名から一文字ずつを取って作った比較的歴史の浅いものも多かった。平成の大合併では、新市、新町の名をどうするかで綱引きになり、話し合いが決裂したこともあった。住民が反対し、住民投票にまで進んだことも。地名とはそれほど思い入れのあるものだったはずなのだが。

船頭、桶屋、材木、鍛治、鉄砲、職人。これは、岡山県中部の小都市、津山市中心部の町名の一部である。船頭町には吉井川水運の高瀬舟の船頭衆が住み、材木町は津山城築城のときの用材置き場で後に材木商が居住、職人町も築城にかかわる技術者集団に由来する。ことほど左様に、説明が要らないほど城下町特有の歴史がそこにはある。津山市中心部は細かく町割りされ、1一キロ四方にざっと30くらいの町名が寄り集まっている。400年変わらないというのは重いことだが、都会並みに町名変更の嵐がまもなくやってくるのだろう。

歴史と文化を重んじる文京区はどういうわけか、かなり早い時期に新潮名の採用を決め、由緒ある旧地名を片っ端から消していった。今頃になって反省の声が多くなって、旧名を復活させようとする動きも顕著のようである。だけど、郵便制度が発達して、丁目を目安にする新しい文化も起こっており、便利さも悪いものではない時代背景からすれば、断固たる決意が必要で、単なる郷愁と感傷だけではことは収まらないね。