文学賞

イギリスのサンデー・タイム紙が興味深い実験を行った。1970年代にブッカー賞を受賞した小説2編の原稿を入手し、それを合計20の出版社および出版エージェントに送りつけた。戻ってきた返事はすべて、出版をお断りするというものだった。さて、500近い文学賞がある日本、これほど多くの文学賞がある国は世界でも例を見ない。

日本では、文学作品そのものよりも、文学賞のほうが重要のようである。作家に会ったとき、「どんな作品を書いてきたか」とたずねるより、「どんな賞を受賞したのか」とたずねることのほうが多いからだ。今の若い作家たちは出版社から「芥川賞が取れるような作品を書いてください」とハッパをかけられるという。文学は賞を貰うことによって評価されるのである。((以上、作家ロジャーバルバースの寄稿文より)

もし同じ実験を日本でやったらどうだろう。芥川龍之介がどこかの出版社に出版依頼して返ってきたメールの文面、<芥川龍之介先生、正直申して、出版はムリでしょう。先生の小説は難解すぎるし、短すぎます。それに小説のタイトルはカタカナにしたほうがいいと思います。菊池寛先生にも同じことをお願いしたところ、「真珠夫人」という作品の書名を「マダム・パール」でもいいといって下さいました>

権威主義も極まれりといった感じだが、審査する先生方の中には、幾つもの賞を掛け持ちしている強者、いわば、これで食っている人も多いようで、やはり日本は平和ってことなんかな。いま海外で最も評価が高い村上春樹芥川賞など登竜門となる賞には縁がなかった。芥川賞の傾向も、どちらかといえば内容よりも出版社主導による話題作りが主眼のようで権威は薄れるばかりだ。