梅安

亀久橋・橋柱

もう、うん10回も読んでる代物だが、ひとたびページを開けると、人物が生き生きと躍動し始める。筋なんかどうでもいい、どうせ梅安が最後には勝つんだし、なんでこの物語はこうも人の心を捉えて離さないんだろう。人が誰でもひそかに憧れるアウトローの世界で、悪い奴を打ち負かす快さもバックにはある。どういったらいいんだろう、行間をうまく使ったテンポのいい書き方、さりげなく顔を覗かせる簡潔な季節と風景描写、これも利いてるねえ。バックに木遣りや新内が流れているような一定のリズム感も、これまた絶妙だ。

が、なんといってもいいのは気を許した同士で交わされる会話が秀逸なんである。梅安はこれまで、小林桂樹、緒方拳、渡辺謙などが演じてきたが、やはりなんといっても緒方拳が極わめつけだねえ。彦次郎役も田村高広以上のはまり役はいない。この二人がかもし出す雰囲気は、まさにジャン・ギャバンなどが作り出したフイルム・ノワールと同じように、上質のコニャックを飲んでる雰囲気だったね。小説を読んでいても頭に浮かんでくる二人はいつも緒方拳と田村高広の顔と仕草だ。

上質のカブをトロトロになるまで煮て、熱々の味噌汁にした奴に生卵とごま油を落とし、飯にぶっ掛けてハフハフ食べる。熱した出し汁に、千六本に刻んだダイコンとアサリの剥き身を手づかみで放り込み、さっと取り出してガツガツかっ食らう。もう読んでるうちに食べたくなって、先日もさっそくカブだけを買うために店を回ったが、季節限定商品だから、どこにも置いてなかった。そうなると、向こう意地が張ってきて、たとえ高かろうと、銀座辺りまで買いに行こうかなって気になってる。