ドクターペッパー

ドクターペッパー

直ぐにとけてしまって、殆どその役割を果たさなかった氷が、やっとその本分を果たせるような季節が到来した。好物のコカコーラに氷は付き物だが、尖って鋭角的だった氷が徐々に溶けていって、丸みを帯びながらコップの中で茶褐色のコーラに浮いているのを、ガブリって飲むのは快感である。コーラと氷の季節は秋から冬にかけてこそ本番なのだ。

戦後しばらく経って、進駐軍の姿をあちこちで見かけるようになって、あの独特の形をしたコカコーラは西洋文明の象徴のようで、物凄く憧れたもんだ。初めて飲んだ時、味の善し悪しは兎も角として、自分もやっと文化人になったんだと、不可思議な陶酔感に酔ったもんだった。

コーラと似て非なるもの、ドクターペッパーもまた良きかな、である。すっかり出番が減ってしまって、町角にたくさんある自動販売機の中にも、滅多にお見掛けしなくなってしまった。
まことに寂しい限りで、思わぬ場所で再会した時なんぞは、嬉しくなってつい、衝動買いをしてしまう。あの独特の臭みと色には、近頃のお上品でお下品な若者達の嗜好には合わないんだろうと思う。

それだからいいんだ、どこでもかしこでも売っていては値打ちが下がる、あの孤高の姿こそ正しけれ、なのである。チカバに密かにドクターペッパーを置いている自動販売機を見つけた。たまに矢も楯もなく、無性に飲みたくなる時があるから、これで一安心である。それにしても、ドクターペッパーというネーミングにどんな意味が込められていたのだろうか、未だにザッツ・エニグマ、つまり謎である。