嗤う

蜷川幸雄

口篇の言葉って、叱る、叫ぶ、呟く、吹く、呼ぶ、吸う、味う、呑む、呆れる、咥える、呪う、唆す、嗜む、吟ずる、嘯く、告げるなど、ほとんどが口に関する言葉だ。ところで、「笑う」は「見る、聞く、嗅ぐ、味う、触れる」の、いわゆる五感から発生する感覚表現の一つだ。

その「笑う」を「嗤う」って書くと、口でうそぶき笑う様を表現するわけで、嘲笑うことをいう。「泣く」を「哭く」と書き換えると、声を上げて泣きじゃくる意味となるのとおんなじだ。
「嗅ぐ」は五感そのものだが、昔の人は鼻と口でものの匂いを嗅ぎ分けていたんだろうかねえ。

ちなみに笑うには「嗤う」(嘲笑)のほかにも、「哂う」(バカにして笑う)、「呵う」(大声で笑う)という字もある。
大演出家、世界の蜷川幸雄先生が監督された映画「嗤う伊右衛門」を見て、その不可解な内容を腹の中で哂いながら、外へ出てから呵々大笑してみたっけなあ。
(「アンクル・トミさんのHPより引用)