◆クリスマス


いつのまにか、いつものように12月になり、あまり嬉しくもない年の暮れが、ヒシヒシと迫ってくる。町中に出ると、いつもとは違う喧騒の中で、LEDの光りとともに、どこからともなく、幾つものクリスマスソングが流れてくる。不景気な今年は、復活した表参道を始めとして、都内のあちこちで街路樹を光りの洪水で埋めているようだ。興味は大いにあるものの、この寒さでは夜半に気楽な気持ちで出掛けようなんて気も起こらない。

さて、クリスマス・ソングだが、数多ある曲の中で、いつも頭の中にしみこんでくる曲がある。この曲を聴くと、題名も分からないまま、「ああ、クリスマスが近いんだな」って実感させられるのだ。そして、なぜか恋人たちのクリスマス、うまくいくといいなあなんて、柄にもない優しい思いが湧いてくるのはどうしたことだろう。この歌の持つ暖かいフィーリングと伸びやかでおおらかな歌声が、そのような心情に誘い込むのだろうか。

♪雨は夜更け過ぎに 雪へと変わるだろう
 Silent night、Holy night
 きっと君は来ない 一人きりのクリスマス・イブ
 Silent night、Holy night
 心深く秘めた想い 叶えられそうもない
 必ず今夜なら言えそうな気がした
 Silent night、Holy night
 まだ消え残る君への想い 夜へと降り続く♪

山下達郎の曲「クリスマス・イブ」は88年民営化されたばかりのJR東海が、5年連続で流したテレビCMに使われ、爆発的なブームになった。名古屋駅を舞台に、深津絵里がホームで恋人を待ち、ムーンウオークで現れた恋人とじゃれ合う1作目。牧瀬里穂がコンコースを駆け抜け、改札から出てくる恋人を柱の陰で待つ2作目と続いた。JR東海は既に87年6月から遠距離恋愛を描いた「シンデレラ・エクスプレス」を流しており、恋人たちの再会をテーマに、そのクリスマス篇として12月に流れた。

JR東海には曲名の問い合わせが殺到し、曲は89年にチャート1位に躍り出た。この曲はいまでも3年連続で、スズキ「シボレーMW」のCMで使われている。人の気持ちが揺さぶられる駅という舞台で、やはり人の気持ちが動くクリスマスという時期に、投げられた「大切な人と過ごしなさい」というメッセージが多くの人に琴線に触れたのだろう。それにしても、クリスマスといってもピンとこないまま、年を重ねてきた。いつだって、クリスマスなんかより年を一つ取ることが癪の種だった。それがいまや、もの凄い負担に感じている。