◆しにせ

銀座歩行者天国

明治30年代、東京の呉服業界は模様合戦にわいた。老舗の三井呉服店(後の三越)は京都に染め工場を構え、復古調の元禄模様に力を入れる。これに対し、より古く平安時代に想を得た御守殿模様で押したのが、創業間もない伊勢屋丹治呉服店だった。伊勢屋は、この模様を柳橋芸者の総踊りで着せたほか、両国の花火大会でも宣伝した。「御守殿模様の成功により、天下の三井呉服店と張り合って高級呉服店を目指す伊勢丹の姿勢に、衆目が注がれるようになった」(伊勢丹百年史)。

 三つの世紀にわたり競ってきた三越伊勢丹が、経営統合を視野に提携交渉に入った。実現すれば国内最大の百貨店グループになる。三越のブランドと優良顧客、伊勢丹のセンスと収益力を「袷の衣(きぬ)」に仕立てる策らしい。三越は明治38年、主要紙に「デパートメントストア宣言」を出し、日本初の百貨店になった。元禄模様の芸者ポスターに列記した取扱商品の中、「欧米流行洋服類」は世紀を経て、今や伊勢丹の得意分野である。世事は有為転変だ。

 総売上高を減らし続けるこの業界は、呉服系も電鉄系も再編の渦中にある。そごうと西武に続いて、今秋には大丸と松坂屋、阪急と阪神が統合する。昨日の敵は今日の友。勢力地図がどんどん塗り替わる、いわば「百貨領乱」の相である。本来の百花繚乱は多くの才能や美が集い、競い合う様をいう。流行を争い、時代を導いた往年の百貨店がそうだった。のれん2枚を重ねて、巻き返しの模様が浮かび出るか。衆目が注がれよう。(天声人語

ここんところ、ずっとつまらなかった天声人語。執筆者が交代し、俄然面白くなった。たかだか600字の中に、最新の出来事を織り込みながら、言いたいことを手際よく押し込むって芸当は、これは大変なことで、しかも毎日続けるわけだから、その苦労はよく分かる。だからといって、読んでいてピンとこないようじゃ、これまた問題だ。今回の執筆者は、文章のツボと引用文に熟達していて、読者に興味を与えながら、鋭い切り込みを入れてくる。いままでのぬるま湯に浸っているようだった筆致とは雲泥の差といえよう。最近好調な読売新聞「編集手帳」、東京新聞「筆洗」においつけ追い越せの気配が濃厚だ。なにせ、コチトラにとって、パソコン上達の先生だったんだから、頑張ってくれないとね。