◆するめ

ウコン

♪お酒は温めの 燗がいい
肴はあぶった イカでいい
女は無口な 人がいい
灯りはぼんやり 灯りゃあいい
しみじみ飲めば しみじみと
思い出ばかりが 行き過ぎる♪

八代亜紀が歌った「舟歌」の一節だが、阿久悠の歌詞が秀抜だった。阿久悠が酒を嗜むんだったら、「あぶったイカでいい」のくだりは絶対にスルメだったはずである。ただ、惜しいかな、字余りだったから、イカになってしまった。居酒屋のメニューで「あたりめ」という定番がある。これは説明するまでもなく、スルメイカを日干し乾燥させた「スルメ」のことで、偶にはスルメイカの一夜干しに遭遇することもある。あぶったスルメイカにマヨネーズが添えてあり、しょうゆを垂らしていただく。できれば、トウガラシが添えてあれば最高だ。シンプルでローカロリーかつ定評のあるおつまみだ。

なぜ、スルメのことを「あたりめ」というのか?これは験を担ぐ商人たちが自分の商売に影響しないよう、悪い言葉を避ける忌み言葉に端を発している。「するめ」の「する」という言葉は「賭け事でお金を擦る」あるいは「財布を掏られる」などを連想させ、縁起が悪いということで、むしろ反対の意味である「富くじに当たる=お金が増える」の「当たり」を使って「あたりめ」と呼ばれるようになった。同じような意味で「すり鉢」は「あたり鉢」と言い、ゴマをすってできる「すりゴマ」は「あたりゴマ」と言い換える。

他にも、果物の「ナシ」は「ありの実」、川辺に生える葦(あし=悪し)は葦(よし=良し)、閉幕や閉会を意味する「お開き」も、あえて反対言葉を当てることで忌み言葉を言い換えたものだ。あえて「するめ」を使うときは「寿留女」と書く。「寿」の字を当てることでめでたさを表す。そういえば、理髪店で顔を剃るが、このときも「顔を剃る」ではなく「顔をあたる」というねえ。

忌み言葉といえば、「男はつらいよ」のフーテンの寅さん。さすがテキヤだけに、忌み言葉にはやたらと敏感だったね。登場人物の結婚や入学話には、くどいほど周囲に念を押し、けっきょくは自分が言ってしまうというオチが多かった。去る・帰る・切れる・戻る・返す・離れる・飽きる・嫌う・破る・薄い・冷える・敗れる・滅びる・重ねる・壊れる・流れる・落ちる・焼ける・燃える・倒れる・飛ぶ・壊れる・傾く・流れる・潰れる・敗れる・失う・落ちる・閉まる・哀れ・枯れる・寂れるなど、多彩だったね。